育休を取る調整はしやすかった

 このインタビューに参加した4人は、電通の社員として1人当たり10種類ほどのプロジェクトを抱え、打ち合わせが一日に6本入ることもあるという多忙なスケジュールだ。2週間〜2カ月という長期の育休を取るに当たり、社内調整や事前の仕事のやりくりは相当大変だったのでは…と想像したが、意外にも「それほど大変でもなかった」という答えが返ってきた。

森口哲平さん。妻は高校教諭で2歳と5歳の男の子がいる。現在の仕事はサービスデザイン・事業開発
森口哲平さん。妻は高校教諭で2歳と5歳の男の子がいる。現在の仕事はサービスデザイン・事業開発

「広告制作という僕達の仕事には突発的な出来事がつきもので、そのたびに臨機応変の対応に追われます。一方、妊娠・出産は5カ月前くらい前には予定が分かる、明確な予測ができるもの。突発的に入る広告制作の仕事に比べれば、半年ぐらい前から分かっている予定に向けて調整するのは比較的難しいことではありません。僕に限らず、スケジュールを自分でコントロールしやすい職種につくこの会社の人間の中には調整できる人も多いと思いますよ」(森口さん)

 また、広告制作は複数人でチームを組むプロジェクト単位で進んでいき、メンバー1人がしばらくいなくなっても、プロジェクトは回っていくもの。電通の通常の人事異動でも、メンバーの誰かが突然辞令を受けて2週間後にはプロジェクトから離れることもよくあることだという。「それでもプロジェクトは問題なく動いていくので、『自分がいなくなったらダメだ』と思いすぎる必要はないと昔、ある先輩に諭されました。だから、育休取得への葛藤などはなかったですね」と森口さんは話す。

 また電通では個々人が自律的な働き方をしやすいワークスタイルであることも、男性の育休取得にはプラスになったようだ。赤木さんは「プロジェクト参加の依頼があったとき、そのヤマ場がどの辺りに来るかを読んで、それが育休中に当たる場合は断りましたね。レギュラーのプロジェクトで、他に代われる人がいないものについては休暇を返上して出社しましたが、新規で入ってくる仕事については事前に調整しました」と言う。

 大山さんも「僕は2カ月間休んだので、事前の周知は意識していましたね。育休に入る1カ月ほど前から『もうすぐいなくなりますよー』と知らせていました。ロングスパンのプロジェクトについては、自分が離脱している間に起こり得ることを想定して、そのときの対策を事前に相談しておきました」。

 一方、男性社員でも育児・家事へ主体的に関わろうとすると、育休明けに仕事への向き合い方やタイムマネジメントの意識を大きく変えざるを得ない。そこには、クリエーターならではの悩みもあるようだ。2〜5歳の子どもを育てる彼らの働き方や葛藤を、明日公開の後編記事で紹介する。

(文/青木典子、編集部 写真/鈴木愛子)