広告代理店最大手である電通には、男性社員が育児休業制度や育児を目的とした有給休暇など、いわゆる育休を取得している率がずばぬけて高い部署があった。「ビジネスデザイン・ラボ」――電通が培ってきたクリエーティブスキルを生かし、広告制作以外のビジネス領域に展開することをミッションとする部署だ。

 ビジネスデザイン・ラボに所属する男性社員の育休取得率が高かった理由は、大きく2つある。まず、「新しい事業や仕事を創る」というビジネススタイルに加えて「新しい働き方」を実験的に行うという役割を担っているため、自分でスケジュールをコントロールしやすいということ。もう一つは、結婚・出産時期に差し掛かった世代の男性メンバーが多く、自然に家庭や育児の話題ができる環境になっていたということだ。

 では、電通で男性社員が育休を取るというのは、どんなことなのだろうか。今回、2週間〜2カ月間の育休を取得した男性社員4人にインタビューした。現在の所属・職種はそれぞれ異なるが、もともとは全員が広告制作に携わっていたコピーライター。育休を取得した2〜5年前の時点では、ビジネスデザイン・ラボに所属していたメンバーだ。

今回インタビューした4人の男性社員。左から森口哲平さん、越澤太郎さん、赤木洋さん、大山徹さん
今回インタビューした4人の男性社員。左から森口哲平さん、越澤太郎さん、赤木洋さん、大山徹さん

育休取得は「クライアントの工場見学みたいなもの」

 彼らが育休を取得しようと考えた理由をアンケートで事前に聞いたところ「妻をサポートするため」「わが子と一緒に過ごす時間を持ちたい」など、世間で育休を取得している男性達とほぼ共通する回答が返ってきていた。ところが、実際に話を聞いてみると、それ以外のクリエーター職ならではの動機が強く働いていた。

 2児の親である森口哲平さんは、過去に1カ月間の育休を取得した。「探究心というか好奇心というか。子どもが誕生して、1カ月の間にどう変わっていくのか興味があった。新規のクライアントを担当することになったら、その会社の工場見学に行ったりしますが、それと似た感覚でした」と振り返る。

赤木洋さん。妻は現在専業主婦で、3歳の男の子がいる。広告のプロモーション企画立案を手掛ける
赤木洋さん。妻は現在専業主婦で、3歳の男の子がいる。広告のプロモーション企画立案を手掛ける

 3週間の育休を取得した赤木洋さんも、森口さんと同じように探究心を抱いて育休に入った。赤木さんは子どもを授かる前からオムツメーカーのCM制作を長年担当。赤ちゃんがスクスク育っていくような育児を表現するCMを作ってきた。

 実はこうした子育て関連のCMは、育児経験がない男性が企画・制作すると、育児経験のある女性にも受け入れられる「理想の姿」を描きやすいのだという。けれど、「『本当はどういうものなのか?』という疑問が常にあって、育児の『実際』を自ら体験したかったんです」と赤木さんは言う。