食が細いことに悩まなくなるとき

食が細い悩みからの解放(1)別の成長基準を得られたとき

 「子どもの食欲のピークは思春期と言われています。小食の子どもは、それまではずっと小食のままであることが多いのですが、幼少期を過ぎて生活の場が広がってくると、小食ではありながらも『サッカーの選手に選ばれた』とか、『学校で100点を取れた』などと、親にとっての成長の基準や軸が『食』だけではなくなってくるのです。

 それによって結果的には『あまり食べないけど○○はよくできるんだね』『健康なら、まあ大丈夫かも』と、小食への不安が徐々に薄れていく。それまでは、親の安心材料が非常に限られているから、小食であることへの不安が増長されているわけで、幼児期に一番この心配が多いというのはそこが理由だと思います」

食事以外の成長を認められるように(写真はイメージ)
食事以外の成長を認められるように(写真はイメージ)

食が細い悩みからの解放(2)コミュニケーションが上手になったとき

 「もう一つは、子どもがきちんと言葉でコミュニケーションができるようになったときです。なぜ食べないかを子どもが言葉で伝えることができるようになり、食べない理由を親が分かるようになるから。例えばブロッコリーなら『このプツプツがなんか嫌だ』と言ってくれると『あ、なるほどね』と納得ができるから安心する。その理由によって調理の工夫もできますね。幼児期のころはそれができないから、親からすると『なんで食べないんだろう』『まずいのかな』と思い詰めて、安心できずにどんどん不安になるのです」

 「ターニングポイントを迎えるのはまだまだ先」という場合、それまでの間はどうしたらいいのだろうか? 山本さんに、食が細い子どもの食欲スイッチを押すためのヒントをもらった。

食の異文化に触れることが食欲スイッチになる

ヒントその1:家の味以外のものを恐れず与える

 「食の細い子どもは、子どもの食欲のピークである思春期まで、ずっと細いままであることが多いです。子どもを見ていて思うのは、それでもそのピークを迎えるまでに必ずどの子にも食べるようになる『きっかけ』というものが何かあります。その一番のきっかけは、なんと、お母さんの味ではないものに出会うことというのが往々にしてあるのです

 毎日あれやこれやと手を尽くし、子どもによかれと思って食事を作っている母親には、なんとも意外で切ないこと。一体どういうことだろうか?

 「食は文化ですから、異文化に触れるということが子どもにとって刺激になる。例えば家では天ぷらを食べなかったのに、よその家では天丼をペロッと食べるようなことはよくあることで、実はこれはとても大事なこと。恐れずにいろんな人の食事を食べる機会を増やしてみていただきたいのです。ママ達は頑なに「全部自分で手作りしなきゃと」思っている方が多いのですが、食の細い子にはぜひ、違う味にチャレンジしたり、違う場所で食べたりする機会を増やしてあげるといいと思います

 親は「わが家の味」で育ってくれるのが理想と思いがちだが、子どもは異文化との接点によって「食べることへの意欲」が出てくることがあるという。

 「買ってきたお惣菜でも、誰かの家でのお呼ばれでも、恐れず違う味を受け入れて食べさせてみてください。もし、わが家の食事よりたくさん食べたら、ショックを受けるのではなく、『一つスイッチが入った』と思うようにしましょう。食の細い子の親(特にママ)は、料理や食事の役割を自分だけで抱えないことが大事なのです

ヒントその2:週末余裕のある日は子どもにクッキング体験を

 「できる範囲でいいのでいつもと違う料理を友達などと一緒に体験させることです。私が携わる親子のプログラムでは、毎月1回クッキングを取り入れ、これを20年間やり続けています。

 この目的はいろいろあるのですが、最も大きなのは、家では食べないものを食べるという経験。自分自身で作るという体験では、先生の指示をよく聞くし、どの子も真剣に取り組みます。もちろん食が細い子でもそれは同じ。

 作ってその場で出来上がるというところに即効性があるし、五感も働き、友達が食べている姿を見ることが刺激になる。食べるという行為は本能なので、どんな子もクッキングは大好き。子ども自身が主体的に作ることで食べることへの興味につながるのです

ヒントその3:子どもが好む食事を時々出してあげる

 「多くの家庭と接点を持ってきた経験上わかったことですが、食が細い子は、味付けや味の濃さなどの好みが母親と違うことが案外あるんです。特に、ママの味が薄いと感じている子が多いように思います」