変動金利の繰り上げ返済は?

 では変動金利で借りている場合はどう考えればいいのでしょうか。

 とにかく借金を減らしたい、という思い込みに金利上昇が怖いという理由も加わって、さらに繰り上げ返済に加速がついてしまう人もいます。

 変動金利で先ほどと同じように1年後と5年後を比較すると差はもっと小さくなります。返済期間35年・金利0.6%・3000万円の住宅ローンで、借り入れから1年後と5年後の繰り上げ返済の効果を比べると、約22.1万円と約19.2万円です。その差は3万円にも満たない額です。

 5年の間に発生する銀行預金の利息を含めればさらに差は小さくなります。もちろんこれは金利が変わらない場合ですが、金利が上がらない限り変動金利の借り入れは放置してもいい、と言えます。

 また変動金利の場合、そもそも繰り上げ返済による効果が固定金利の場合と比べて非常に小さいことに気づくと思います。理由は簡単で、金利が低いうちは利息負担が少ないからです。注意すべきは急激な金利上昇だけですから、それに備えて貯金をしておいてください

 本当にそれでいいの?と思うかもしれませんが、変動金利の場合、金利が変わるのは半年ごと、返済額の変更は5年ごとに行われます。ある日突然金利が上がったとしても、適用されるまで数カ月の猶予はあるわけです。その間に繰り上げ返済をすれば金利上昇の影響を受ける借入額を大幅に減らせます。

 借入残高と同額の貯金ができてしまえば金利上昇のリスクはほぼゼロになります。短期間でそこまで貯金ができる方はほとんどいないと思いますが、借入額の半分など、かなり多くの金額を貯められれば金利上昇リスクを大きく減らせます。つまり手元に貯金があれば金利が上昇するまで放置をしてもよいのです。重要なことは貯金の額をいかに増やせるかです。

住宅ローン減税と繰り上げ返済の関係は?

 住宅ローン減税と繰り上げ返済の関係を気にする方もいますが、影響はあまり大きくありません。住宅ローン減税は借り入れ当初から10年間、年末の借入残高に1%を掛けた額が所得税・住民税から差し引かれます(現在は適用される借入額の上限が4000万円ですが、時期によって上限に違いはあり)。繰り上げ返済をすれば借入残高が減りますから、減税額も減ります。10年間の適用期間が終わるまで待ったほうがお得?と判断に悩む方も多いようです。

 まず、現在の固定金利1.5%の水準ならば、少しでも早く行ったほうが得です。先ほどと同じく、3000万円を35年ローン、金利1.5%で借りた場合、100万円の繰り上げ返済をいつ行うか?という条件で試算します。

 利息軽減効果と減税額を合わせた額を比較すると、借り入れから1年後の繰り上げ返済では約317万円、10年後の繰り上げ返済では約306万円と、差額は11万円です。早く行うほどお得であることが分かります。ただ、9年間も後倒しして100万円当たり11万円ですから、資金繰りに余裕がないときは無理をする必要はまったくない、という先ほどと同じ結論になります。

 変動金利の水準である0.6%で計算すると結果は逆になります。借り入れから1年後の繰り上げ返済では約269万円、10年後の繰り上げ返済では約272万円と、住宅ローン減税をフル活用したほうが3万円得という結果になります(ただし変動金利の試算は返済終了まで金利が変わらない場合)。

 変動金利ですでにローンを組んでいる方ならば、ここ数年で購入した方は0.875%や0.775%くらいの金利で借りた方が多いと思います。それくらいの金利水準だと住宅ローン減税の期間中と終わった直後では、ほとんど損得は変わりません。したがって変動金利の場合も、金利が上がらない限りは資金繰りを優先して繰り上げ返済はせずに放置してよい、というアドバイスは同じです。

 すでに説明したように手元にお金を残すほうが重要という観点から考えると、住宅ローン減税との兼ね合いはさほど気にしないでよいということになります。