繰り上げ返済のタイミングは?

 タイミングについては「毎年必ず100万円」など、事前に決める必要はありません。特に、購入直後は頭金で貯金が減っています。加えて住宅購入のタイミングはお子さんが小さくて時短勤務中、といった方も少なくないはずです。この時期は家計の収支が悪化している方がほとんどですので、繰り上げ返済を行って貯金を減らすのはあまり良いやり方ではありません。一旦5年くらい先送りしてもいい、と考えてください。

 返済期間35年・金利1.5%・3000万円の住宅ローンで、借り入れから1年後と5年後の繰り上げ返済の効果を比べると、約64.5万円と約55万円です。5年先送りしても9万円程度しか差はなく、数年先送りしても繰り上げ返済の効果は非常に大きいことが分かると思います。慌てる必要は全くありません。

 5年という期間は、過去の相談の経験上、家を買うタイミングは第一子が生まれて奥様が育児休業から仕事に復帰する前後のほうが多いことを前提に考えています。復帰から1~2年後くらいに二人目のお子さんが生まれて2回目の産休・育休・時短勤務を乗り越えるまで5年くらい、という想定です。繰り上げ返済はライフプランの波を乗り越えてからでいいのでは、ということです。

 これはあくまでモデルケースですから、ご家庭に合わせて時期を決めてください。

繰り上げ返済で得をするのはいつ?

 ではフルタイム勤務に復帰すれば繰り上げ返済をドンドン行って問題がないのかというとそういう訳でもありません。そのときの貯金額が影響することはもちろんですが、繰り上げ返済をすれば手元の資金が減ります。何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、案外誤解されているのが繰り上げ返済で得をする時期です。

 期間短縮型の繰り上げ返済では、返済期間が短くなることによって得をします。つまり、繰り上げ返済をした時点では、毎月の返済額は変わりません。何が起きるのかというと、手元のお金がただ減るだけです。

 得をするのが30年以上先だと考えれば、お子さんが小さいときの(余裕があると思って行った)繰り上げ返済により、大学進学時に手元の貯金がやけに少ない、ということは起こり得るわけです。将来の教育費負担が大変だから住宅ローンを繰り上げ返済で早めに減らしておこう、可能なら完済してしまおう、といった考えはとんでもない間違いだと分かると思います。

 例えば毎年100万円の繰り上げ返済を行えば、総額は10年間で1000万円です。つまり繰り上げ返済を行わなかった場合と比べて10年後には1000万円分だけ貯金額に差がつきます。1000万円が手元にあるかどうかは、教育費にかかわらず失業や大病など万が一を考えたときに大きな違いです。

 このような考え方を「資金繰り」といいます。損か得かはもちろん重要ですが、手元にお金を残して支払いが確実にできる、つまり資金繰りに余裕があることはそれ以上に重要だと考えてください。会社でも家計でも、破たんをするのは支払いができなくなったときです。それを防ぐには手元にお金を残す以外に方法はありません。