【失敗例4】親世帯が1階、子世帯が2階という間取りに不満の原因が

 共有スペースを多く設ける場合に気をつけたいのが、親世帯と子世帯の生活時間の違いだ。共有する部分が多いと、どうしてもお互いに不満が溜まりがちになる。

 二世帯住宅の場合、1階に親世帯、2階以上に子世帯が住むケースがよく見られる。しかし、子世帯のほうが生活時間が遅くなる場合が多いので、この構造だと夜間に上の階から足音など生活音が響いて、親世帯が不満を持つ場合も少なくないという。

 そうしたトラブルを防ぐため、関さんは発想の逆転を勧める。「以前は足腰の弱った親世帯は1階というのが常識でしたが、最近では家庭用エレベーターが普及してきたため、3階建ての一番上の階に親世帯が住まうケースが増えています。最上階なら上の階からの音を気にせずに暮らせますし、窓からの眺めもよいのでゆったりと老後の暮らしを楽しめるでしょう」(関さん)

エレベーターを設置すれば、足腰が弱った親世帯でも見晴らしのいい3階を住まいにできる
エレベーターを設置すれば、足腰が弱った親世帯でも見晴らしのいい3階を住まいにできる

 今や家庭用エレベーターは180万円ほどで設置できるので、3階建ての場合は設置率がかなり高くなっているという。「もしすぐに設置しなくても、上下階の同じ位置に納戸スペースを設けておけば、将来、エレベーターを後付けすることも可能です」と、久野さんも教えてくれた。

「今の3階建ては構造がしっかりしているので、世代が交代しても長く住まうことができます。もし孫世代が遠隔地に就職して家を離れてしまっても、1階部分を賃貸に出して家賃収入を得ることも可能です。いずれ孫世代がその家に戻ってくれば、住宅ローンの負担に悩まされずに住まうこともできるでしょう」(久野さん)

上下階の同じ位置に納戸スペースを設けておけば、後からでもエレベーターを設置することが可能だ
上下階の同じ位置に納戸スペースを設けておけば、後からでもエレベーターを設置することが可能だ

多世帯が寄り添うことで家族のつながりが深まる

 ありがちな失敗を未然に防ぐように工夫できれば、多世帯住宅に住まうメリットは少なくない。共有スペースがあることで空間を有効に使えたり、コストを抑えて金銭的に余裕が生まれるといった実用的な面だけでなく、精神的なゆとりにもつながる。

「親、子、孫という3世代が寄り添って住まうことで、家族のつながりが深まります。そうした家で育った子どもは、地域の高齢者などにも自然と手をさしのべられるようになるものです」(河崎さん)

 メリットの多い多世帯住宅だが、いざ作るとなると親子がお互いに遠慮してしまい、話がなかなか進まないこともあるだろう。そんな場合は親子そろって住宅展示場などを訪れ、工夫された住まいや設備を実際に見れば話を切り出しやすくなる。限られた面積、限られた予算の中で、何を重視すればいいかは家庭によって異なる。住宅展示場へ行けば経験豊富な専門家のアドバイスが受けられるのも心強い。

税金面でもトクになる多世帯住宅

 親と子が一緒に多世帯住宅を建てれば、別々に1軒ずつ建てるより建築コストが抑えられるケースが多い。さらに税金面でもトクになるケースもあると、久野さんは教えてくれた。

「親の自宅が建っていた土地に多世帯住宅を建てれば、子世帯が土地分の固定資産税を新たに負担する必要がありません。また建物分の固定資産税について2戸分の軽減を受けられるケースがありますが、玄関やキッチンがそれぞれ独立し、壁や扉で仕切られていることなどの要件を満たす必要があります」

 さらに相続税対策として有効な場合もある。親と同居していた子が親の自宅を相続する場合、相続税を計算する基準となる土地の評価額が330㎡まで8割減となる「小規模宅地等の特例」が利用可能だ。多世帯住宅なら子が同居していたと見なされるので、この特例が使えて相続税が大幅に軽くなるケースがあるのだ。

(文/大森広司 写真/菅野勝男)

■これからの多世帯住宅について、もっと知りたい方は多世帯生活labへ