30代、迷っていたのは「音楽を誰に、どんなふうに届けるか」――

 バンド時代は、20代の私が20代の女の子に向けて恋の歌を歌ってきました。じゃ、これからは? 30代の私は、ミュージシャングループの“最年長的な立場”で、これまでと同じように20代の子に向けて恋の歌を歌うのか。それとも、“ベテランと呼ばれる世代の一番下っ端”の仲間入りをして歌い続けるのか。

 プリプリを続けていれば、なんとなく「若い流れの中の最年長」でいられたかもしれないけれど、30代になり、自分も結婚して環境が変わると、そんなポジショニングもはっきりしなくなっていきました。もちろん、伝えたいメッセージが年齢で何か変わるというわけではないけれど、当時は自分の立ち位置がよくわからなくなってきたんですね。

 だから、ソロ活動を始めて、アルバム2枚くらい作って、ツアーもやったけれど、「なんだか少しつまらないな」という思いが正直あった。その一方で、私に新しくできた“奥さん”という仕事が新鮮で楽しかった。なんだかんだやっているうちに、子どもができて、そうしたら気持ち的にも、物理的にも音楽どころじゃなくなってしまって……。

 だから、前にもちらっとお話ししたように、長男が5年生くらいになるまで10年くらいは本当に音楽をやっていませんでした。聴くことさえしなかった。世の中でどんな音楽がはやっているのかなんて、ちっとも気にならなかったし、曲を作ろうとも思わなかった。音楽を拒絶していたわけではなくて、それどころじゃなかったというほうが大きいけれど。