うっすらわかってきた、虎が体操教室を楽しみにする理由

 週に1回通っている高田道場の体操教室。虎は時々、泣いて泣いてどうしようもないときもあるのだが、基本、虎にとっては好きな空間であるらしい。鉄棒が得意。マット運動が上手。それだけで小学校低学年男子の人生はまるで違ったものになる、と信じる父としては、喜ばしい限りである。

 だが、ここにきてうっすらとわかってきた。虎、確かに体操教室は嫌いではない。……嫌いではないのだが、しかし、好きというわけでもない。にもかかわらず、毎週木曜日が近づいてくると「体操教室いつ?」と聞いてくるのは、ほかの理由も関係していたらしい。

 オンナ、である。

 2歳児、3歳児の体操教室である以上、子どもたちが一人で来られるはずもなく、当然、お母さんたちが一緒についてくる。でもって、お母さんたちの中には、さらに小さい赤ちゃんが生まれたばかりの方もいて、家に置きっぱなしにするわけにもいかないから、お兄ちゃんと一緒につれてくることになる。

 体操教室が行われているのは、全面に柔らかなマットが敷かれた畳にして三十畳程度の空間である。その中でかけっこをしたり、鉄棒をしたり、うんていや綱渡り、ボール遊びなどをしていく。スポーツライターとして採点すると、虎の場合、バランス力はまずまずだが、ジャンプ力、ダッシュ力が落第レベル、根気に関しては完全失格といったところである。

 そして、そうでなくとも根気のない虎を、さらにダメな存在にしているのがオンナである。生後5カ月の“みなみちゃん”である。

 かつてはプロレスラーとして後楽園ホールでも戦っていた千恵先生(元バンザイチエ)の号令の元、子どもたちは走り、飛び、回る。ところが、ほとんどの子が言われた通りに頑張っている中、虎だけは壁際で見守っているみなみちゃんとお母さんの近くに来ると、自分が何をやっているのかをスコーンとロストしてしまう。

 走っていたとしたら、急にストップ。みなみちゃんの横に座り込み、おでこをなでる。じっと虎を見つめるみなみちゃん。すると虎、すかさずみなみちゃんの横に添い寝。

 「お~い虎~、なにやってるんですか~」

 千恵先生の声にもまったくおかまいなし。ついにはみなみちゃんの手をとってチュッとする始末である。

 これは断じて、“俺の鏡”じゃない!

 わたしは男子校で育った。女子にちやほやされたいのは山々だったが、そんな体験に恵まれることはついぞなく、かつ甲子園に出場したがゆえにそうした体験に恵まれた野球部の面々を妬み嫉む高校生活を送った。

 「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、大学に進んでからも、自分から積極的にアプローチすることはできず、それができる人間を“ちゃらお”と呼んで侮蔑するようになっていた。なんというか、女子に対して普通に接することのできる人間が、羨ましくて妬ましくて仕方なかったのだ。

 なのに虎、お前がやってることはなんなんだ?

 しかも、である。