第1~5回では、中小企業における時短社員の人事評価について紹介してきました。特集最終回では大企業の事例を解説します。

時短勤務社員の働き方を考える三本柱 「仕事内容・目標設定・評価」

画像はイメージです
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 「元祖イクボスが明言『時短社員の評価に正解はない』」で、三井物産ロジスティクス・パートナーズの川島高之社長は「中小企業は変えようと思ったら、明日から変えられるが、大企業は社内の制度を変えるのに1年がかりだし、制度を整えても変わりづらい」と述べています。

 しかし、大企業でも先進的な取り組みを行っている企業はあります。

 具体的な企業ケースの紹介に入る前に、まずは三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)の経済・社会政策部で主席研究員として、女性活躍促進などを専門として研究している矢島洋子さんに、企業が時短勤務社員の働き方を考える際のポイントを3つ教えてもらいました。

 「時短勤務社員の働き方を考えるときのポイントは『(時短勤務社員に)どのような仕事を配分するか』『どのような目標を設定するか』『どのように評価するか』の3つ。中でも評価の仕方はよく議論されがちですが、その前提としての前者2つのほうが、実はとても重要なのです」(矢島さん)

 この前者2つのポイントについて解説していきます。

働く時間が短い分、アサインする仕事量は減らすべき

 まず1つ目の「どのような仕事を配分するか」という点についてです。

 MURCの調査によれば「時短で働いていても、仕事の内容や量はほとんどフルタイム社員と変わらない」と回答する時短勤務社員が多いという結果が出ています。「もともと日本企業では個々の社員の役割・責任範囲が曖昧で、勤務時間の短縮が仕事量の削減に結び付かない傾向にあります」(矢島さん)。

 つまり、時短勤務社員はフルタイムとあまり変わらない量の仕事を、より短い時間で効率よくこなしていると認識している一方で、周りからは「朝夕いない分カバーしてあげなければならず、周囲に負担を掛けている存在」とマイナス評価をされている場合が多いのです。

 一方、仕事を自分の裁量で効率化して時短で対応しやすい事務職と違い、時短勤務になることで顧客対応に困難が生じやすい営業職などの職場では、時短勤務社員だという理由により、上司が本人の希望によらずに仕事の内容を変えてしまい、その結果、やりがいまで奪われてしまっているケースもあります。

 「最も適切な方法は、働く時間が短くなっている分、アサインする仕事量も減らすことだと考えます。時短によって基本給も減っているので、その分の仕事量が軽減されることは当然だと考えていいのではないでしょうか。ただし、正社員として等級に応じた期待役割(仕事の質)を変えずに、量を勘案してもらうことが望ましいと思います」(矢島さん)

 そして、2つ目の「目標設定」についてです。これは職場によって大きく2パターンあると矢島さんは言います。「フルタイム社員と同等の目標を設定され、常にマイナス評価を受ける」パターンか、「フルタイム社員に比べ、かなり低い目標を設定され、その目標をしっかりとクリアしても低い評価しかもらえない」パターンで、時短勤務者の認識としては、前者のほうが多いようです。

“時短社員はこう思っているはず”と決め付けない

 「どちらのパターンでも時短社員側には不満がたまる結果になります。実は『時には残業したい』のに、残業させてもらえなくて悩んでいる時短社員もいます。上司は“時短社員はこう思っているはず”と決め付けず、どんな家族環境で、どんな働き方をしたいと思っているのかを聞き取り、制約のある時間の中で、できる限り本人が能力を発揮することができる仕事と目標を与え、一律ではなく、頑張った時短者は頑張った人なりに評価されていると感じられるようなマネジメントをする必要があるのです」(矢島さん)

 上記2つのポイントを押さえて、やっと3つ目の「評価する」段階に進めると考えるのが正解のようです。

 では、女性の活用が進む企業ではどのような制度を構築しているのでしょうか。
 日本IBMの事例から見ていきましょう。