徹底的に部下と向き合う

――「働きやすさ」と「成果を出す」という話は、真逆のベクトルに聞こえがちですけど、成果を出すロジックやメッセージの伝え方を教えて下さい。

斎藤 すごく難しいテーマだと思います。ヤフーでは、まず、上司が部下と向き合わないといけない仕組みを作っています。「1on1(ワン・オン・ワン)」と言って、原則的に一週間に一回、向き合って、さらに向き合った後に、ちゃんと1on1をやっているか、部下が1on1の中身をチェックします。

 あとは普段、上司は部下を指導しますけれども、部下が上司について知っていること、続けてほしいこと、やめてほしいこと、始めてほしいことの4つをフィードバックする「ななめ会議」をやってます。さらに、「人財開発カルテ」と言って、半年に1回、全社員が、自分の強みや課題、3年後どうなっていたいか、それを受けてこの1年間何をするのかを自己申告します。

 こういった人財の可視化と、圧倒的に上司が部下と向き合わなければいけない仕組みと、さらに緊張関係ですね。上司は部下からも評価をされます。これくらいの緊張関係を生むと、上司は部下一人ひとりの働きたいという気持ちと、向き合わざるをえないんですね。

 例えば、部下が育児中でも、普段から分かってるんですね。今この人はどんなことにチャレンジしているのか、どんな状況なのか。だから、簡単に仕事は取り上げません。状況を見て、きちんと仕事をアサインできる。こういう仕組みで、成果を出すということと、働きやすさを両立させています。

佐藤 マイクロソフトの場合も、一番のベースは、パフォーマンスマネジメントをきちんと回すことですね。結果を出すということと、いろいろな人や部署、そしてお客様と連携しながら、どれだけ大きく、しかも将来的にも持続可能な結果を出していくかという点を評価します。

 ただ、テレワーク・在宅勤務が進むと、フェーストゥーフェースで話す時間が少なくなっていきます。それを担保する形で、例えば、定期的に上司と部下が腰を据えて、キャリアの話やパフォーマンスのフィードバックをする。あるいは全社員が一堂に介してビジネスの話をする。もしくは、カフェテリアのような場所で、部署を超えて社員が集まって話ができる交流の場を設ける。そのようにうまくバランスを取れる仕組みにも力を入れています。

 そのベースがあった上で、各人が賢く上司と摺り合わせながら、また人事のアドバイスも受けながら、自分がさらに効率よく働ける、あるいはライフステージに合う働き方を実現するためにカードをうまく使う。そういったことを徹底するようにしています。

テレワークで残業が減った

――会場から具体的な質問があるのでご紹介します。様々な働き方、人材に対して、従業員の労働時間をどのように把握してますか、という質問です。

斎藤 ヤフーは年俸制ではないので、1分単位で勤務管理しています。

 「どこでもオフィス」という形でテレワークを導入していますが、日本マイクロソフトの「Skype for Business」を使って、その人がアクティブになっているかが見られるようになっていますので、「何をやっているのか」は常に、違う場所にいても見られるようになってます。

佐藤 同じです。労務管理の面から、管理職であっても全員、始業時刻と終業時刻は、きちんと記録します。あとはもちろん、Skype for Businessを使い、相手がどのような状態にあるのかを確認することができます。

――テレワークを導入するときは、さぼる人をどう管理するのかという点を心配したが、トライしてみると、働き過ぎをどうセーブするのかという問題のほうが大変だという話をよく聞きます。そのあたりどうお考えでしょうか。

佐藤 テレワークを導入したい企業の方から「過重労働をどうしていますか」という質問をよく受けます。結論から申し上げると、マイクロソフトではテレワークをかなり導入していますが、記録を定点観測でとったところ、残業は増えておらず、逆に5年間で5%減っていました。

 仕事の効率と生産性が上がっていますので、短縮した時間を自己啓発や家族のために使えるような状態になっていると思います。

斎藤 仕組み化することが、導入のポイントだと思います。ヤフーでも「どこでもオフィス」というテレワークを取り入れた後は、さぼる人より仕事をしすぎる人のほうが心配になりました。

 やはり、細切れでいつでもどこでも仕事ができてしまうので「明日でいいのにな」と思ってメールしたつもりが、深夜に返ってくる。そういったことがあるので、例えば管理職は、退社したらメールで指示を出さない。あるいは、Web会議を整備したり、会社に来ると「Skype for Business」を立ち上げる。そうした共通のプラットフォーム、共通のルールを整備することが重要だと思います。