過去の評価による遅れは取り戻せない

S 会社で女性管理職を増やそうという動きの中で、私も狙ってるんですね。でも介護の問題とかで思うように働けないっていうフェーズにあって…。そういう中で、30代で子どももいる人が時短を取っていることなんて関係なくアピールしていて、役職的にランクも同じだったら、そっちが先に昇進しますよね。

 今の人達は「6割の時間しか働いてなかったら、売り上げ目標も0.6達成してたらいいでしょ」って主張する。一方で、私の過去すでに評価されてしまった分の遅れは取り戻せないんですよ。対外的にもこれから管理職を増やしたい会社は、先の長い若い社員を登用したほうがいいわけです。それで追い越されたら、やっぱりモヤっとはしますよね。

R それはうちも同じ。でも私はちょっと達観している面もあって、社内のコースを上がっていく男性達を見てると「そんな能力でも上がれるんだ?」と思うようなケースっていっぱいあるんですよ。マミートラックをずっと走らされてるジレンマは確かにあるけど。

 管理職が本当に目指したいものなのか、ということにも疑問を感じる。ああいうことのために残業するのかと思ってしまう働き方はできない。それなら思春期の子どもの話を聞く時間を取ることのほうがよほど大事だなと。子どもを育てて、いろんな経験をして、社内の男性達よりもこっちのほうがよっぽど人間の幅は広がってると思います。

S 確かにジレンマで辞めるくらいの気持ちなら、勝手に辞めればとは思いますね。私も役職を目指すのとは違った形の目標を立てつつあります。

T 昇進とかよりも自分が満足できるように働いているかが重要。育児をしていると、会社を冷静に見れますよね。ナンセンスなことは多いけど、大人だから話は通じるわけで。

V 育児で得たスキルは絶対仕事に生きると思います。評価対象としてアピールするのは難しいですけど。

U 私は別に昇進したいわけではないんですが、頑張らないと相対評価でランクが下がってしまうんですよね。そうするとプライドの問題もあるし、やっぱりモチベーションが下がるので。ただ、時短からフルタイムに戻したところで必ず評価が上がるわけでもないし、残業もついてくるし、時短を取っていることで転勤ができないという扱いにしてもらったりしているので、時短を外しにくいという面はあります。

── 管理職になること、昇進することをみんなが目指さなくてもいいとは思います。でもやはり、それとやりがい、給料などがすべてセットになっている中で「評価されない」ことはモチベーションを下げるので、企業としても非常にもったいないことをしていると思います。一方で、評価や登用の面でこれまでのやり方を変えていこうとすると、過去の評価が固定化された中では同じ女性達の間での心理的対立を生んでしまうということを痛感しました。

S 育休世代は羨ましいです。でも、内輪モメをするとよくないので、世代間対立はしないようにとは思っています。ただ苦労してやってきた私達を置いていかないでほしいとは思う。それでモチベーションが下がってる人もいると思うので。

R 私達の世代だって上の世代からは「私はお茶くみからやったのよ」と言われますもんね。社員のモチベーションが下がったことによって生産性の低下につながるとか、そういうことを経営陣がやっぱり理解して変わらないとだめだと思う。

V 女性の間でもめる状況になっているケースは、見ているとマネジメント側に問題があるように思います。片方の不公平感を解消しないまま放置していたり。

U 苦労した先輩がいるから今があるというのは認識していないといけないと思います。でも自分の子ども達が社会に出るまでには変わってほしい。それと、会社は子どものいる男性への配慮が何もなくて、夫に育児をやってもらううえで夫は他の人と同等に仕事を振られているわけで、いっとき夫が両方の責任で鬱っぽくなってしまったことがあったんです。男性が子どもが熱を出したのでお迎えに行きます、というハードルはものすごく高くて、そこの意識改革まで進まないとだめだと思います。

T 夫は30代ですが、男性側の意識がまだ追い付いていなくて、会社では50代男性上司と闘って、家でも夫と闘っていますね…。

── 今回の参加者の間ですら微妙に出てきた子どもを産んだ女性の間でのギャップ、そしてもっと大きな男性達の意識とのギャップ…。様々な構造の変化が起こる中、一人ひとりが自分に起こっていることを納得させようとしている様子、それが他の世代や変化そのものへの複雑な感情を呼び起こしている様子が垣間見える座談会でした。

 私自身も本のタイトルに「育休世代」とつけたことで、世代で分けること自体を批判されることがありますが、世代それぞれの背景を知り、対立しないことが重要だと思っています。そして最終的には「子ども達の世代にまでこの葛藤を抱いてもらいたくはない」というところでは、今回の参加者、そしてDUAL読者の思いは一致しているのではないでしょうか。