時短だけど責任ある仕事もできる環境になってきた

S 下の世代は、係長クラスとか管理職手前で産んで、2歳児を抱えて大変なのに、「男性に比べて大きなプロジェクトを任されていないから不公平」とか堂々と言うんですね。全然残業してなくても。私のときは、残業してないとか時短とかで周りに迷惑かけちゃいけないから、与えられた仕事をきちんとやろうと遠慮していたのですが、今は「残れないのは当たり前でしょと、でも私はなんで男性と同じものを与えられないの?」って。本当に同じ仕事を与えられて、お客様からの電話対応できるの? 周りがフォローして当たり前って思うの? と思う部分はあります。

U 年代もあるかもしれないんですけど、ここ数年の世の中の環境の変化が大きいように感じます。私の場合、1人目の復帰のときと2人目の復帰のときとで会社の雰囲気がガラリと変わりました。

 1人目を産んだ5~6年前に復帰したときは、時短で閑職に追い込まれました。そもそも部署ごとに役職順に名前が並んでいる組織の中で自分は外枠で、派遣の人と同じ枠にされていました。そういうふうにしか見られてないんだとすごくショックでした。時短だから「外の人と接する仕事は任せられません」となって、データ入力の仕事に回されて。私のランクだと売り上げ目標はついているのに、外の人と接する仕事をさせてもらえないから悶々としたんですよね。1人目のときは「福利厚生でこういう制約のある人も働かせてくれて、どうもありがとうございます」みたいな。

 でも2人目を産んで復職した2014年は、空気が変わっていました。「時短だけど、責任ある仕事もできるんだ」という状況に。丸投げされるのではなくて、フォローもしてもらえるようになりました。今小さいお子さんがいるママ達は、環境が変わってから復職したので、時短でもやりがいを求められる環境になったのでは。

── 女性自身の世代の問題よりも、産んだときの状況によって置かれている状況が非常に異なることが分かります。『「育休世代」のジレンマ』のインタビューは2000年代に就職をして入社10年以内くらいに出産をした人達を対象にしていますが、今回の話を聞いて、就職した年代よりも、出産したのが、女性の母数が増えて制度も整って「育休を取って仕事を続けることが当たり前」になってきた2010年ごろ以降かどうかが、個人のライフコースとキャリアを追ううえでのキーポイントになる気がしました。

S 確かに、うちの会社も以前は時短の人は転勤できなかったのですが、時短の人が増えて増えてしょうがなくて、人事異動もさせるように変わっていっています。

Tさん(以下、敬称略) 中小企業は遅れていますよ。でも、今私は介護問題を抱えている人や自分が病気をした人など制約ある人達が多い部署にいて、「定時で帰っても売り上げは立てられるんだぞ」っていうのをみんな示そうとしています。私達、制約ある者の意地ですね。

Vさん(以下、敬称略) 私も産んだときにはすでに制度は整ってましたね。中途採用が多くて30歳半ばで産むタイミングがみんな一緒で、4~5年前に社内でベビーブームがあったんですよ。使われていなかった制度が一気に使われるようになって、そういう人達が全員戻ったあとだったので、私は管理職ですが、時短による制約を感じたことはありません。「何か突発事項があったら、あなたの義務の中でやってください」ということになって携帯とパソコンを貸与されていて、緊急事態があったら帰ってもいいけど処理はしてね、という状況です。

 復職するときに、上司からどういうふうに働きたいって聞かれて、「私が時短と思わないで遠慮なく振ってください」とお願いし、繁忙期には残業することもあります。管理職になる前に子どもを産んで、子育てしながらキャリアアップしていった事例は少ないので、後輩達は管理職になってから子どもを産みたいって計算しているみたいです。

S 私の中で、もうここで世代が違うなって感じますね。時短の管理職が増えるというのは想像がつかないです。うちの会社では変えられない気がします。「早く帰ろう」の旗振りをしても、そんなのできるわけねぇだろうという人も多いので。

R うちの会社も「管理職になりたいなら、時短やめたほうがいいよ」ってはっきり言う人がいます。

V 制約を感じたことはないと言いましたが、うちもまだ管理職で時短というのは私を含めて数名しかいません。それでロールモデルみたいに見られてるので、変に残業しちゃうと後輩に「管理職になったら、やっぱり残業するんだ」って思われちゃう。だから、隠れて仕事を持ち帰ったりしています…。

── 時短や残業なしでもやりがいを求め、正当な評価による昇進を求める。こういった「育休世代」の反応は、少し前の世代からは考えられないことなのかもしれません。パイオニアとしてやってきた人ほど、数が増え、働き方の見直し自体も進む中で、自分が合わせてきた仕組みそのものが変わっていくことに抵抗感も出てくるのだろうと思います。残業をしないと管理職は務まらないのか、ということについては、女性達もそうなってほしい、そうなるべきだという変化を歓迎しつつも、今までのやり方にとらわれてしまう側面もあるとの印象を受けました。