2009年の夏、勤め先のインテルから2カ月の休暇を取ったチャールズ・スコットさんは、8歳になる息子のショウくんとともに自転車で北海道の宗谷岬から九州の佐多岬までを走破する日本縦断の旅に出ました。その旅の一部始終をつづった『スコット親子、日本を駆ける 父と息子の自転車縦断4000キロ』(邦訳 紀伊國屋書店)は、働き盛りで子育て真っ最中の日経DUAL読者世代にはちょっと困った“問題作”。何しろ読み終えると「今すぐ会社を休んで子どもと冒険旅行に出よう!」という思いに駆られるのですから。

実際には、肉体的にも物質的にも、そして精神面でも入念な準備が必要ですから、安易にマネをすることはできません。しかし、日本縦断の旅から6年、スコット一家は、うらやましいくらい強い絆で結ばれています。

本の中ではポケモンとゲームセンターが大好きだったショウくんは、声変わりをして、背もすっかり伸び、サッカーに夢中な14歳に成長。わずか2歳だったサヤちゃんは8歳に。妻のエイコさんは今も国連で働いており、チャールズさんはその後、14年勤めたインテルを辞め、作家・冒険家としての活動に専念しています。東京を訪れたスコット一家に聞きました。冒険旅行を経験すると、子どもはやはり勇敢になるものなのでしょうか? 

「何が子どもにとってベストなのか」を悩むのが親の仕事

日経DUAL編集部 日本縦断の旅の道中、チャールズさんは何度も「8歳の子どもに無理だ」とたしなめられたり、驚かれたりします。チャールズさん自身、旅の初めには「この冒険は息子にとって正しいことなのだろうか?」と自問していました。どんなふうにしてその「答え」を見つけていったのでしょうか?

チャールズ・スコットさん(以下、敬称略) 冒険旅行をしているときに限らず、どんな親も、自分が子どもにとって正しいことをしているのか、自問する瞬間があると思います。そこに1つの正解はないのだと思います。正しい答えは、親子の関係によって違いますし、一人ひとり、人は違うのですから。

 親にできるのは、何が子どもにとってベストなのかを真剣に悩み、もがくこと。それだけなのだろうと思います。

 そして、それと同じくらい大事なのは、「自分自身が何を求めているか」を知ることだと思うのです。なぜなら、親は子どものロールモデルだからです。親が「本当にやりたいことを子どものために犠牲にしている姿」しか子どもに見せなかったら、子どもが親の背中から学ぶのは「本当にやりたいことを犠牲にする姿勢」になってしまいます。ですから理想は、自分がやりたいことを子どもと分かち合えることなのだろうと思います。

チャールズ・スコットさん
チャールズ・スコットさん