なぜ、子どもは疲れているのか?

 屋外で走り回り体をいっぱい使うような遊び方をしていると、子どもははっきりと疲労を感じます。子どもは大人よりも数倍、睡眠力が高いですから、夜にぐっと眠ることで翌朝にはエネルギーを回復できるもの。しかし、ゲームのように「興味」「反射力」「スリル」などをかき立てられる遊びは、体は疲れなくても知らず知らずのうちに心を疲労させます。ゲームに熱中した後は、目や頭がぼーっとするような疲れを感じるものです。体を動かした後の疲れとは全く種類が異なります。思春期の男の子が「だりー」とか「疲れたー」と言うと、「ゲームばっかりして疲れてもいないくせに!」と怒ってしまうかもしれませんが、実際は子どもも気づかないうちに疲れている、と思ってあげる必要があるかもしれません。

 ゲームによる疲れは一日中デスクワークをしている大人と同様のものとイメージしてください。みょうに神経がたかぶって眠れない、だから、子どもも疲労を回復しにくくなる。実際に、10年ほど前からわが国でも「子どものうつが増えている」ということが問題視されています(※)
※2003年に北海道大学大学院保健科学研究院傳田健三教授らによって行われた小中学生3331人を対象に調査。「何をしても楽しくない」「生きていても仕方がない」などうつ症状に関する18項目の質問で、小学生で12~13人に1人、中学生で4人に1人の割合で「抑うつ群」という結果が出た)

 デジタル系の遊びやSNSによる感情のもつれによって精神疲労を蓄積するのは学童期以降ですが、もっと幼い未就学世代も、最近は、核家族化によって子どもの預け先がなく、親の生活リズムに合わさざるを得ないことから夜型になりしっかりと深い睡眠を得られず、疲労を蓄積している子が多くなっていると感じます。

こころの疲労は明確な症状がなく、自覚しにくい

 幼い子どもを育てるときにつきものの「睡眠不足」、さらに会議やパソコン作業など頭脳労働による「精神疲労」、それだけでなく私達は人との接触による「感情の発動」によってもつねにエネルギーを消耗しています。

 大事な仕事のプロジェクトが控えているけれど、子どもがまた熱を出すのではないかと不安になる、夫とのケンカで怒る、職場で自分ばかりが面倒な仕事を押しつけられているのではないか、とイライラする、子どもを叱り過ぎて、後になってくよくよする……こんなふうに色々な感情をかき立てられることによっても人はどんどん、エネルギーを消耗しています。

 しかし、人はそれを「疲労」とは自覚しにくいのです。

 心の疲れは、肉体的な疲れとは違い、じわじわとゆっくり進むので、「疲れた!」という自覚は起こりにくい。むしろ、

●一日中、眠い、だるい
●頭が痛い、頭が重い
●気分が悪い
●わけもなくイライラする

 といった、全身にもやがかかったような不快な症状として自覚されます。疲労による不快症状ですから、本当は「休む」という対処が一番のはず。しかし、鎮痛薬を飲んだり、コーヒーをがぶ飲みする、あるいはイライラする相手に当たる、といった間違った対処をしてしまいがちなのが特徴です。ますます疲労をため込むことによって集中力を欠いた結果、仕事でミスをしたり、周囲との関係が悪くなってしまったりしてしまう、ということもよく見られます。

疲れたときに人がはまりやすい「仕事へのしがみつき」という悪循環

 もう一つ、やってしまいがちなストレス対処法が「しがみつき」という行為です。

 悔しい、つらい、腹が立つ。そんな嫌な気持ちを抑えるのはとても難しいもの。そこで人がよく行うのが「快感をかぶせる」という対処法です。とにかく快感をかぶせてしまうと、手っ取り早く嫌な感情は消えてしまう。その手段としてよく使われるのが「お酒」です。お酒を飲むと、ふわっとして一瞬楽しい気分になる。眠くなるから「眠って嫌なことを忘れられる」ようにも思えます。しかし実際はお酒は睡眠の質を下げ、よく眠れないから余計に苦しくなる。つい、また飲酒してしまう。このように、結果的に自分を苦しめるのにもかかわらず、その行為を続けてしまうことを私は「しがみつき」と呼んでいます。