なぜ多くの児童が亡くなったのか

 宮城県石巻市の大川小学校では、74人の児童と10人の教職員が津波に襲われて亡くなったり行方不明になりました。学校管理下にありながら、103人の児童のうちその多くが犠牲になったのです。同市内の海岸近くにある門脇小学校では、校内にいる児童は全員無事だったのにもかかわらずです。

 小学校のすぐそばには津波を避けられる高台(裏山)があったのですが、大川小学校の児童は避難できずに、教師の指示に従って地震発生から津波到来まで、51分間校庭にいました。「大川小学校にも防災マニュアルや防災訓練がありましたが、あるだけで教職員に周知徹底できていなかった。防災マニュアルにも、一部津波に関する記述はあるものの、津波避難や二次避難場所などの検討がなされていないかった。そのため裏山へは逃げなかったのです。その時何人かの子どもは『山へ逃げッペ!』と先生に訴えましたが、教師たちの避難判断が遅れ、命が助かる山ではない別の場所へ移動中に大津波に襲われてしまいました」(渡辺さん)

 一方、門脇小学校では、大きな揺れがあったので津波が来ると教職員が判断し、すぐに高台へ避難したため犠牲者はありませんでした。非常時の対応には学校によって、かくも大きな違いがあったのです。今後、首都直下地震が起きたら、大川小学校と同じように、救える命が失われることが起きる可能性も十分にあるのです。

では、共働き親は何ができるのか

 こうした話を聞くと、自分の子どもが通っている学校、保育園は災害時に大丈夫だろうかと不安になります。私たち親にできることはあるのでしょうか。

この記事を読んだ親御さんは、お子さんが通っている小学校や保育園に対して、どういった防災対策を取っているのか詳しく聞いてみてください」(渡辺さん)。

防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実さん
防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実さん

 学校に防災マニュアルはあるのか。親が数日間帰宅できない状況になったら、保護者が迎えに行くまでどのように子どもを見てくれるのか。小さなお子さんのいる共働きの先生は何人いて、いざというときに常時対応できる先生が何人いるのか。校庭に出る避難訓練だけでなく、広域避難場所に向かう訓練も実施しているのかーー。細かく聞いていくと、学校や保育園の防災対策がしっかりしたものなのか、それとも形だけのものなのかわかってくると渡辺さんは話します。「小学校の授業参観で、災害時に子ども達の命を守るために教師が動きやすい靴を履いているのか確認するのも防災意識を見る目安になります。例えばサンダル履きはあり得ません」(同)。

 もし学校や保育園の防災対策が不十分な場合は、学校側に危機意識を持ってもらい、万全な対策を立ててもらうよう働きかける必要があります。「個々人で働きかけてもダメならば、PTAを通して働きかけるのも良いでしょう」(同)。子どもの命に関わることなので遠慮は禁物。学校の意識を変えるには、親の一歩踏み込んだ行動が必要なときもあります。

 一方、学校の管理下にない時間帯、例えば登下校の途中などで巨大地震が発生したら、子どもは自分で判断して動かなければなりません。わが子が命を守るために迷わず行動できて生き別れてもすぐに出会えるよう、事前に子どもへ伝えるべきことや親子で準備すべきことを次の記事で解説します。

同時公開の記事「大地震が起こる前に、わが子と共に行うべき準備」では、子どもと一緒に準備しておくことを解説しています。

(文/辛智恵)