東日本大震災の際、首都圏では帰宅困難者になる人であふれたが、それでも翌日までには家に帰れた。だが首都直下地震が起これば、働いている最中の共働き夫婦は、数日間家に帰れない可能性が高い(Photo by Haruyoshi Yamaguchi/AFLO)
東日本大震災の際、首都圏では帰宅困難者になる人であふれたが、それでも翌日までには家に帰れた。だが首都直下地震が起これば、働いている最中の共働き夫婦は、数日間家に帰れない可能性が高い(Photo by Haruyoshi Yamaguchi/AFLO)

わが子の命を守る準備から目を背けていませんか?

「首都直下地震の切迫性が高いというのは客観的事実です。30〜40代のあなた方なら、生きているうちに必ず経験するでしょう」

防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実さん
防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実さん

 こう話すのは、防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実さんです。渡辺さんは防災・危機管理の仕事に携わって約40年。その間に阪神・淡路大震災と東日本大震災、2つの巨大地震を取材してきました。その経験を基に「日本列島に暮らしていたら、巨大地震は避けられません。それなのに水や非常用持ち出し袋を用意しただけで安心していませんか。巨大地震に対して危機意識のない人が多過ぎます」と警鐘を鳴らします。

 実際、文部科学省地震調査研究推進本部が出した想定によると、マグニチュード7クラスの首都直下地震が30年以内に発生する可能性は70%程度と非常に高いのです。

 もし今、大地震に襲われたら、あなたはわが子の命を守れますか? 共働きの忙しさにかまけて、親として防災について真剣に考えることを後回しにしていませんか? 何の準備もせずに、行き当たりばったりで大切なわが子の命を守ることができるでしょうか。

 日経DUALでは、大地震が起こった際に共働きの親と子どもを襲うであろう被害の全貌と、それに備える真剣な方法を4回シリーズでお伝えします

首都直下地震では「火の津波」が襲う

 東日本大震災では巨大津波に、阪神・淡路大震災では建物の倒壊や家具に押し潰されて多くの命が奪われたのは記憶に新しいところです。幸いにも首都圏は、この2つの地震で大きな被害はありませんでした。

 ですが「首都直下地震が発生したら、危険な都市を作ってしまったので、とんでもない被害が起きるでしょう」と渡辺さんは話します。そして、東日本大震災とは違った形の被害も予想されるのです。

 まず内閣府に設置された首都直下地震モデル検討会が2013年12月に発表した「首都直下地震の被害想定と対策について」によれば、マグニチュード7.3の都心南部直下地震が起きた場合の想定死者数は、最大2万3000人にも達します。冬の早朝に発生した阪神・淡路大震災の死者6434名の3倍以上です。

 たとえ地震の大きな揺れから身を守れたとしても、次に襲ってくるのが火災の恐怖です

 例えば首都直下地震の被害想定では、火災が同時多発的に発生することで40万棟以上の住宅が焼失することが想定されています。先ほど挙げた首都直下地震が発生した場合の想定死者数2万3000人のうち、火災による死者は半数以上の最大1万6000人になると見積もられています。

 これだけ多くの火災が発生したら、いったいどうなるのでしょうか。住宅密集地では延焼の危険性が高く、消火活動が困難です。「大地震の後に同時多発的に火災が起きたら、東京消防庁は火災がそれ以上広がらないように延焼防止に取り組むのが戦略となります。ですから個々の火災は消せません。まさに火の津波が起こるのです」(渡辺さん)

東京都が出している、東京湾北部地震(マグニチュード7.3)で起こる火災の焼失棟数分布シミュレーション(冬18時、風速8m/s)。この試算でも、約20万棟が火災によって燃失すると想定されている
東京都が出している、東京湾北部地震(マグニチュード7.3)で起こる火災の焼失棟数分布シミュレーション(冬18時、風速8m/s)。この試算でも、約20万棟が火災によって燃失すると想定されている