値段の変動に賭けるのが「投機」=「ゼロサムゲーム」

 一方、「投機」とは、投資した会社の価値が長期で高まるのを待つのではなく、株や債券の値動きに賭けてもうけようとするやり方です。ある日の株の価値が100円だったとして、翌日には110円になると思えば、その日に100円で買うわけです。

 実際に、翌日110円になれば買った人は10円もうかります。一方、予想が外れて90円に下がれば10円損します。会社の価値は世界全体として長期では上昇しますが、わずか1日ではほとんど変わりません。だから、もうかる人もいれば損をする人もいて、合計ではプラスマイナスゼロです。これを合計ではゼロという意味で、「ゼロサムゲーム」といいます。株でも債券でも、短期で価格の差をとってもうけようとするのはゼロサムゲーム、つまり「投機」なのです。

 一方、長期でも「ゼロサムゲーム」、もしくは「投機」と考えられる投資対象もあります。金などの商品(コモディティー)や、FXなどの為替取引です。商品や為替は、それ自体を長期で持っていても、価値が増える対象ではありません。会社の事業では、経営者や従業員が日々死に物狂いで働いてくれるからこそ、長期では価値が増えていくのです。しかし、商品や為替は、そのもの自体に価値が増えていく仕組みが備わっていません。その結果として、商品も為替も、持っているだけでは利息が付かないのです。

 ここで少し難しいのは、為替で高金利の通貨に投資していると、金利差の分がもうかるように思えることです。詳しく書くと長くなるので、ここでは簡単に説明しますが、高金利の国の通貨は基本的にインフレ率が高いのです。インフレ率の高い国の通貨は、買えるモノの量が減り、価値が下がります。価値が下がる通貨は、長期では為替が下落します。

 高金利通貨は、短期的にはむしろ高金利が好感されて、為替レートが上昇することもあります。しかし長期では、逆に高インフレを背景に為替レートが下がるというややこしい仕組みになっているのです。つまり金利差でお得な分は、長期では為替下落で失われてしまうというのが金融の原則なのです(このあたりは少し複雑なので、金融機関の販売窓口で金融商品を売る人達もよく理解していないまま、「高金利なのでお得ですよ」と薦めていることがよく見られます)。

 ともあれ、商品も為替も、ある時期にはもうかることがあります。しかしある時期には損をします。長期で価値が高まっていく対象ではないので、長期で全員の損得を合計すると、ゼロ。つまりゼロサムゲームなのです。

投機は損する人と得する人が入り混じる「ゼロサムゲーム」
投機は損する人と得する人が入り混じる「ゼロサムゲーム」