子どもが「ずる賢いやつが出世している」と教わっている国もある

阪部 「感謝を催促しているみたいで恩着せがましい」というわけですか。それは衝撃的ですね。いわゆる西洋の個人主義とはまた異なった価値観と言えるでしょうか?

尾崎 アフリカ独特の社会主義的な考えというか。家族主義ですね。家族というコミュニティーが単位になっていて、数限られた稼ぎ頭に、稼ぎのない者達が当たり前のようにぶら下がる。しかも全員で。養うほうはそれで威張ることもない。また、養われるほうも施しを受けるからといって感謝することもない。それが当たり前の世界として成り立っているのです。

 日本にいる我々は小学校のころに、教科書などで「正直者は必ず報われる」と教わりましたよね。彼らはそうじゃない。現地の子ども達が物心つくころ、慣れ親しむ民話や寓話の中には、必ずしも「正直者が報われる」とは説かれていない。むしろ、「ずる賢いやつが出世している」という考えが語られているものがあるんです。

阪部 勧善懲悪の世界ではない、と? アリとキリギリスの寓話も「キリギリスのほうが賢い」という結末に?

尾崎 そんな感じです。考えてみれば、それこそが自然界の摂理です。病気や事故など死ぬことがものすごく身近な世界における、彼らの学びなのでしょう。極端に言えば「生きていくにはハイエナになれ」ということ。

阪部 出世して抜きんでたり、稼いで偉くなったりするのは“本人がそうなりたいから、自分の意志でそうしている”のであって、その一握りの稼ぎ頭にぶら下がって生きることもまた当たり前の理として同格に認められる社会ということですか? 養われている者達は日本でいう「ニート」のような貶められ方をしないということでしょうか。

尾崎 それに近いと思います。家族や親族の中には稼げる人もいれば、そうでない人もいる。人間関係の判断基準においてそういう意味での上下関係ではありません。非常にフラットです。マインドがイギリス化して資本主義的な世界観で稼ぐことを第一義にする人々もいますが、やはり限られています。ごく一部の都市部のマイノリティーでしかない。