現地マネジメントの“難易度・極限的”なリーダーシップOJT

阪部 現地でブラジル人の部下20人のリーダーとしてマネジメントをされていましたが、そのときのご苦労について教えてください。

久野 初めての部下が自己主張の強いブラジル人ばかりの中で「俺は日本人だ」という“外様の態度”では受け入れてもらえません。ブラジルに骨をうずめるくらいの覚悟でいました。住む国に愛着を持つことは大事ですし、相手にも必ず伝わります。まずこれが大前提。これは今の時代も変わらないのではないでしょうか。

阪部 会社の辞令にいやいや従うというような消極的な感じで行かれたわけではないのですね?

久野 それは違いますね。もともとブラジルが好きでポルトガル語を勉強していたくらいでしたので、あわよくば永住してもいいとさえ思っていました。

 マネジメントにおいては、日本人同士で「あれやっておいてね」で通じていたことはブラジルでは一切通用しませんでした。現地では「何のために」「何を」「いつまでにやってもらいたいのか」、こちらが相手に要求するレベルを正確に伝えなければなりません。

 例えば、お手伝いさんが食器を洗っている最中にコップを割ってしまった場合、日本では「コップを割ってしまった」と言いますが、彼らは「コップが割れた」と言います。形あるものは、いつか壊れる。「コップは自発的に割れたのであって私のせいではない」。一事が万事この調子です。ビジネスの世界では期待値を明確に指示することが求められます。

阪部 マネジメントはこうあるべき、と指導してくれる先輩はいらしたんですか?

久野 いませんでした。極限的なリーダーシップのOJTをやらされていたようなものでした。

 日本における部下のマネジメントと、駐在員が現地で行うマネジメントは分けて考えるべきであるということ。ただ、それらはどこかでつながっているということを経験できたことは、今となってはよかったと思っています。もちろん、26年前は試行錯誤の毎日でしたが……。