大臣 女性が活躍するためには、社会、夫婦関係、企業、それぞれの持続可能性を考えた上で、男性の家事・育児、ファミリーマネジメントへの参画が大事だと考えています。大綱には、それに密接した問題として、長時間労働の是正についても明示できました。同時に、結婚には適齢期はありませんが、安全に妊娠・出産するには、生物学的、医学的にリミットがあるという現実を早い段階で伝えていく旨を明記しています。

「父親になる」ことを支援できる社会をつくりたい

羽生 「少子化社会対策大綱」には、5年後に「男性の配偶者の出産直後の休暇取得率80%」(※)の目標達成を目指すとあります。これはかなり高い数値目標ですね。みなさん驚かれたのではないでしょうか。
(※)配偶者の出産後、2カ月以内に半日あるいは1日以上取得する休暇

大臣 正直なところ、私も最初は「実現可能性やいかに」と逡巡しました。今まで統計すらとっていませんでしたから、それだけ注目されてこなかったということであり、「80%」という数字はチャレンジングではあると思います。ただ、私たちの人生において、わが子が産まれるときほど命に向き合う貴重な機会がほかにあるでしょうか。

「『親になる』という人生において大事な時間を、家族で過ごしてほしい」
「『親になる』という人生において大事な時間を、家族で過ごしてほしい」

羽生 本当に大変なチャレンジですが、実現させたいものです。

大臣 有給休暇や特別休暇でも構いませんし、半日でもよいということであればお休みを取れる方は増えると思います。まずは、子どもが産まれた日、出産後、赤ちゃんが退院して初めてお家に来る日、出生届を届ける日の3日間は休暇を取ろうということを新しい文化にしていきたいと思います。

 「父親になる」というときに家族が一緒にいるということは、本人の人生にとっても大事ですし、当たり前のものとしてそれを理解し、支援できる社会をつくることが不可欠です。

 休暇を取得した方には、新しい家族を迎えるときに家族で同じ時間や空間を共有することのうれしさ、楽しさ、責任の重さ、尊厳を体感して、自らの言葉でポジティブメッセージを出していただきたいですね。そうすれば、後輩も取りやすくなりますし、2人目、3人目の子どもが生まれるときも取りやすい社会になっていくはずです。

羽生 DUALでも子育てと仕事にかかわる喜怒哀楽を凝縮してお届けしたいと思っています。やはり、体験を伝えていくことで変わっていくのでしょうね。有村大臣は全国統一のマタニティマークを推進してこられました。妊娠した後輩たちからも、マタニティマークがあって助かったという話をよく聞きます。

大臣 今、小学生と保育園児の子育て中です。私が一人目を授かったときにはマタニティマークはありませんでした。当時は自治体によって作っているところや、個人的につけている方はいましたが、統一されておらず、男性にはあまり認知もされていませんでした。全国で統一して誰もが分かるようにしなければ意味がありません。

「子育てを当事者だけの問題にはしない社会を目指す」
「子育てを当事者だけの問題にはしない社会を目指す」

 私自身、つわりがひどくて、流産の恐れがあると言われながら毎日を過ごしていましたから、働きながらお腹の赤ちゃんを育むお母さんの気持ちが痛いほどわかります。そういう実感があって、全国統一マークへの動きとなりました。

羽生 子育て中の女性に対する社会の目線ということでは、電車やバスなどでのベビーカー問題や、保育園の騒音問題など現時点でもさまざまなものがあります。

大臣 まず、私たち大人も社会の中でそうして育ってきた子ども時代があったということを伝えていかなければなりませんね。「子どもはうるさい」という方も、にぎやかな子どもの頃があったはずですし、「ベビーカーが邪魔だ」という方も、乳母車に乗っていた時期があったわけです。

 本人を含めて、当事者だった時期があるということを考え、それが社会の連鎖として続いているということをゆとりを持って受けとめていただけるとありがたいと思います。

 そのためにも、当事者だけの問題ではないと発信し続けることが私の役割だと思っています。子どもたちが大きくなったら、この社会、地域を担う納税者になり、働き手にもなります。地域の活性化にもつながるわけですから。

羽生 新しい少子化社会対策大綱に関しては、どんな反応がありますか?

大臣 どんな批判があっても歯を食いしばって現実を直視した提言を出すべきだという決断をしましたが、少子化社会対策大綱への批判的な意見はありませんでしたね。少子化が進んでいることへの国民的な危機感の表れかもしれません。

 エンゼルプランから始まってほぼ20年が経ちました。ひとつひとつ前進はしましたが、2014年の合計特殊出生率が1.42と9年ぶりに下がったこともあり、さらに政策を主流化していかなければなりません。

羽生 企業では、子どものお迎えのときに嘘を書く習慣がまだまだあるようです。ホワイトボードに「営業NR(ノーリターン)」「取材NR(ノーリターン)」と、子育てをしていることを隠して嘘を書く。

「日経DUALオリジナルのマグネット&シール」
「日経DUALオリジナルのマグネット&シール」

 DUALでは、これを何とかしたいと思って、ホワイトボードに貼るマグネットを作りました。「帰宅後19時からも俺の腕の見せ所!」「時間はないけど結果は出す!」と大きく書かれたマグネットを配布しています。お話を伺って、私たち一人一人が、できるところから声を上げていくことがとても大事だと改めて思いました。

大臣 まあ、なんと素晴らしい試み! このマグネットはいいですね。

(第2回へ続く)

(ライター/太田美由紀、写真/稲垣純也)