現在、音楽活動をしながら長男・礼夢くん(らいむくん・10歳・小学5年生)を育てている、SPEEDの今井絵理子さん。息子さんは生まれつき耳に障がいがあります。「耳が聞こえないのは、個性の一つにすぎません」と明るく語る今井さんの子育てに迫ります。前回記事「今井絵理子 聞こえないことは恥ずかしいことじゃない」に続く連載・第3回では、今井さんが「音楽をやめようと思った瞬間」などについて伺いました。

私が音楽をやめようと思った瞬間

 音楽をやめようと思ったことがあります。

 私は歌が好きです。結婚しても、出産しても、ずっと歌っていきたいと思っていました。だから子どもを産んだ後も、子育てが落ち着いたらまた復帰して歌いたいと思っていました。

 でも、礼夢は音が聞こえないと知ったとき、音楽を仕事として続けることはできない……と思ってしまって。一番身近な家族に自分の歌を届けられない。音楽の力、音楽の素晴らしさを知っているのに、それを息子に伝えられない。悔しくて、悲しくて、音楽を辞めたほうがいいと思ったのです。

 でもあるときのこと。私が叩いていたおもちゃの太鼓の音に礼夢が反応したんです。そうか――、音として聞こえなくても、振動は伝わっている。これが彼なりの音の感じ方なんだなと知ってからは「音楽を続けよう」と決めました。

 礼夢はテレビを見ながらよく踊っています。音は聞こえなくても、彼の頭の中ではきっと彼なりの音楽が流れているのだと思います。

 ちなみに、彼は毎朝、自分で起きてきます。小さいときから必ず6時~6時30分くらいに起きるんです。体内時計ってすごいですよね。聴覚に障害のある他の同級生には、目覚まし時計の音が聞こえないから親が起こさないと起きない子もいるのですが、礼夢は毎朝きちっと起きて、逆に私を起こしてくれます。「朝だよー起きよー」って。そのたびに、子どもにはその子にしかない力が宿っているんだな、と思わされます。

 礼夢は今、自分の耳が聞こえないことやその理由を、まだ深くは理解していないと思います。ママは口でしゃべる人。自分は手話でしゃべる人――。そういう認識でいるようです。でも、それでいいんだと思います。日本語を話す人、英語を話す人、フランス語を話す人……というのと同じ感覚だと思います。

 礼夢と同じ境遇の同級生の中には「なぜ自分は聞こえないのだろう」と感じて親に聞く子もいるようですが、礼夢はまだ私に聞いてきません。生まれつき音が聞こえない礼夢にとっては、聞こえないのが当たり前。それが彼の世界。だから、聞こえない自分が特別だと思っていない。いつか現実と直面するときが来るかもしれませんが、聞こえないことを恥じることなく堂々と自分の人生を歩いていってほしいと思います。