真珠は、貝の中から出てくる瞬間が一番きれい

 東京大学の臨海実験所が、三浦半島に開設されたのはなぜなのでしょう。三浦半島の海は、近くに深海があって、生物が暮らしやすい環境なのだそう。それで生物の種類が多いのです。

「中世時代の『生きている化石』と呼ばれる生物もいて、三浦の海は『奇跡の海』なのです。みんなは、生物にとっていい環境とは何だと思いますか?」

 教授から子ども達に質問が投げかけられました。生き物が大好きで参加を希望した子も多く、元気に手が挙がります。「海がきれいなこと!」「植物プランクトンが多いこと!」と積極的に答えます。

 続いて、ミキモト真珠研究所でアコヤ貝の研究を続けている樋口さんが、三重県の英虞湾から持参したアコヤ貝を手に持ち、パカっと開いてみんなに見せます。開くと同時に子ども達から「わ〜! キラキラしてる!」「すごくきれい!」と歓声が上がりました

 キラキラの元は、「ピース」と呼ばれる外套膜の一部、2㎜角の切片です。「アコヤ貝の生殖巣に、このピースと、真珠の元となる『核』を挿入します。挿入したら海に戻して、数カ月〜2年。核を覆うようにピースが真珠質を形成していき真珠が生まれます。真珠が育って、アコヤ貝を海から引き上げて、真珠を取り出す作業を『浜揚げ』といいます。真珠が一番きれいなのは、この時! 真珠が貝の中から出てくる瞬間なのです」(樋口さん)。

真珠を生み出すアコヤ貝を手に、解説する樋口さん
真珠を生み出すアコヤ貝を手に、解説する樋口さん

高級な真珠ネックレスを着けると「冷たい」

 10分間の休憩後、5人ずつのグループに分かれて、体験タイムの始まりです。4つのコーナー、「磯の生物観察」「海の環境、真珠養殖の環境について」「真珠の浜揚げ体験」「真珠の品質と種類について」をめぐり、それぞれの担当の先生からレクチャーを受けました。

「磯の生物観察」のコーナーは、東京大学大学院理学系研究科付属臨海実験所の黒川先生、幸塚先生が担当です。実験台には、臨海実験所から持ってきた海の生き物を展示。子ども達は優しくそっと触りながら、説明に耳を傾けます。

「これは、クマサカ貝といって、成長とともに小石や貝殻を貼り付けて、『僕は石です』と表現して外敵から身を守る不思議な貝です」と黒川先生。

机に並べられた貝がらや生き物に、子ども達は興味津々
机に並べられた貝がらや生き物に、子ども達は興味津々

「海の環境、真珠養殖の環境について」のコーナーで興味深かったのは「貝リンガル」についてです。

 「貝リンガル」とは、バイリンガルのダジャレのようですが、二枚貝の「会話」をキャッチする海洋環境観測システム。通常、貝は、1センチくらい口を開けて呼吸をしていますが、プランクトンが異常増殖してアコヤ貝を苦しめる「赤潮」が発生すると、パクッパクッとする回数が増えます。この生体反応を言葉にして、貝の異変、海の情報をキャッチ。ミキモト真珠研究所の皆さんの携帯電話に、貝から「クルシイヨー」と、メールが届くのです! イベント開催中にもちょうどメールが届いたので、画面を見せてくださいました。なんと、絵文字付きの「クルシイヨー」でした。

「真珠の品質と種類について」では、真珠の歴史が学べました。天然の真珠は大昔からあって、魏志倭人伝にも登場。エリザベス1世も好んで王冠や首飾りに使っていました。「大きなピンクの巻貝からとれるコンクパールは、巻貝だから養殖ができず天然ものしかない貴重なものです」(ミキモトの広報担当、小泉さんと坂巻さん)。目の前に展示されたコンクパールの1粒に見惚れていたお母さんの瞳は、子ども達に負けず輝いていました。

 子ども達が、高級な真珠のネックレスに触れて着けてみる体験もできました。男子も積極的に首にぶらさげていましたが、着けてみて多かった感想は、「冷たかった!」「思ったよりも重かった」。本物の真珠は冷やっとして、どっしりしているんです。「大きくなったら自分で買おうね」と娘に伝えるお母さんもいました。

初めての真珠のネックレスに、思わず照れ笑い
初めての真珠のネックレスに、思わず照れ笑い