連載「黒田優佳子先生の優しい生殖医療講座」第6回です。不妊治療専門施設の黒田インターナショナル メディカル リプロダクション(東京都中央区)院長の黒田優佳子先生に「卵子の凍結保存の難しさ」と「採取した精子を凍結するタイミングの重要性」について詳しく聞きました。

なぜ卵子の凍結保存は難しいのか?

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長・黒田優佳子先生
黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長・黒田優佳子先生

DUAL編集部 前回記事「精子の凍結保存 施設によって技術の高低に大きな差」で精子の凍結保存の具体的なプロセスについて詳しく解説していただきました。その際、黒田先生は「精子の凍結に比べて、卵子の凍結はさらに難しい」とおっしゃいました。それについて詳しく教えてください。

黒田先生(以下、敬称略) 卵子の凍結と、精子の凍結は、性質が全然違うのです。それは、そもそも卵子と精子の細胞の構造が大きく異なっているからです

 精子はとても特殊な細胞です。

 人間の一般的な細胞は、細胞膜という袋の中に色々な器官が細胞質という溶液に浮いているイメージです。

 一方、精子はオタマジャクシ形で、頭部には核、すなわちDNAがぎっしり詰まっており、細胞質(液体)がありません。実は、精子が精巣で作られる最初の段階では、精子も一般の細胞のような形をしているのですが、徐々に形が変わって最終的にオタマジャクシの形になるのです。

 以前の記事(「健康な赤ちゃんを授かるなら、顕微授精には慎重に」)で、精子はこの細胞質を失うことにより、細胞質内にあるDNA修復酵素を失うデメリットに触れましたが、細胞の凍結に際しては、この水分が少ない細胞であるということが大きなメリットになります。ですから精子の凍結保存は、数十年前から実用化され、例えば、世界中で生まれるウシのほとんどは凍結精子を用いています。