「ママじゃなきゃ嫌」と言われる夫の気持ちが、初めて分かった

 「ごめんなさい」とはれぼったい泣きはらした顔で言う。続けて「パパとママと寝る」。その様子があまりに健気だったので、思わずギュッと抱きしめてしまった。結局、息子が落ち着いてベッドに入ったのは0時近く。私のほうがごねて一緒に寝かせてもらったみたいな、微妙に釈然としない思いを抱えつつ、虎の隣で横になったのだった。

 息子の寝顔を見ながらしみじみ思った。子どもに拒否されるのって……、こんなにツライのね。今まで、夫がそんな憂き目に遭っている場面は何度も目撃していた。グズる虎を抱っこしようとして、拒否。ごはんを食べさせようとして、プイッ。寝かしつけのときや具合の悪いときに、「ママじゃなきゃ嫌」と言われ落ち込む夫に、「本当にそう思ってるわけじゃなくて、単なる気まぐれなんだから」となぐさめていた言葉が、今は私にこそ必要なんて。

 実際、夫にその言葉通りのことを言われた。ありがたかったが、ちょっと傷ついた。でも、「パパのほうがいいってさ~」とか得意げに言われたら、ムカッときたと思うので、このなぐさめの言葉がベターということだろう。私も夫にそう言っておいてよかった。お互い様ってところだ。

 ちなみに、その後もしばらく「パパと寝る」ブームは続いた。でも、「パパと寝る」と言った後、はっと気付いて「ママ泣く?」と聞く。「泣かないよ」と答えると、心底ほっとした表情になる。「パパとママと一緒に寝る」と彼なりに気を使うこともある。ママの涙の威力はスゴイな。

体操教室に私が珍しく付き添ったら、史上最高の「やる気」を見せた虎

 お互い様と言えば、逆のエピソードもある。

 高田道場の親子体操教室の付き添いは、基本的に夫に任せていると、以前書いた。それは、私と行くと甘えてしまって何もやろうとしないのだが、夫と行くと一人で一生懸命にトライしようとするからだった。半分ふてくされながらも、体操などは夫がやらせたがったわけだし、父親同伴のほうが適しているからいいやと思って、私はノータッチだった。

 ところが、夫が仕事でどうしても付き添えない日が発生した。休むのももったいないので、「また何もやらないのかな」と憂鬱な気分で、何カ月ぶりかで私が一緒に行ったのだ。そうしたら、驚くことに、虎史上最高の「やる気」を見せたのだ。

 大好きな鉄棒や平均台は言わずもがな、今までイヤイヤやってたダッシュも率先してやり、一度もできたことのない三点倒立も見事にクリア。名前を呼ばれたら、「はい!」と大声で手を上げ、ほかのお母さん方から、「今日は虎くんすごいですね」と感嘆の声があがるほど。

 そして、何かするごとに、ちらっちらっと私のほうを見る。「ママ、見てる?」と言わんばかりに。

 これ、自慢してるんだな。めったに来ないママが来たもんだから、「こんなにできるようになったよ」っていうアピールなんだ。全くおもしろいもんだ、子どもって。やる気次第でなんとでもなるのだから、親によるモチベーション・コントロールがいかに大事かということなのだな。

 この虎大奮闘の様子を夫に伝えたところ、「くそ~!」と悔しがっていた。今まで自分が必死にやってきたことは何だったんだ。たまに来ていいところさらっていきやがって、などという心情が、その悔しげな表情に表れていた。いやぁ、私もその気持ち分かりますよ。お互い様です。