子どもが犯罪被害に遭わないために親が知っておくべき知識について、地域の安全や犯罪予防を研究する小宮信夫立正大学教授が、実際の事件や事故を元に検証しながら解説する連載。前回の記事では、神戸連続児童殺傷事件から学ぶべき防犯ポイントについて説明しました。
 今回取り上げる事件は、2013年8月に三重県朝日町で起きた、女子中学生強制わいせつ致死事件です。小宮教授は、「この事件からも、犯罪が起きやすい条件がそろっていたことが分かる」と言います。お話を聞いてみましょう。

──今回分析するのは、2013年8月25日、三重で起きた事件です。花火を見に行った中学生の女の子が、帰り道の途中にある空き地で殺害されました。

 その日、被害者であるAさんは、四日市花火大会を友だちと見物した後、JR朝日駅の近くにあるスーパーマーケットで友だちと別れて家に帰ろうとしました。その後、スーパーマーケットから歩いて10分の距離にある、県道に面した空き地で殺害されたのです。その空き地は、県道から入ってすぐのところにあり、南側に高さ5m前後の木が生えていました。つまり「入りやすく」「見えにくい」場所だったんです。

 事件が起きる場所には、ある共通点があります。その共通点とは、領域性が低く、監視性が低いということ。分かりやすくいうと、「入りやすく」「見えにくい」ところなんです。

 「入りやすい」場所とは、誰でもたやすく入れて、他の人に違和感を与えない場所です。「見えにくい場所」とは、木々に囲まれていたり、建物の陰になっていたりして、子どもの姿がよく見えない場所です(詳しくは、以前の記事をご参照ください)。

 そういった観点でみると、たしかにこの現場は、事件が起きやすい場所でした。しかし、今回の記事で着目する点はそこではありません。事件が始まった場所、つまりスーパーマーケットに注目してみたいと思います。

事件は空き地ではなく、スーパーから始まっていた

──事件の発端は、スーパーマーケットなんですか?

 そうです。実は、Aさんと友だちがスーパーマーケットにいた時、この事件の犯人である高校生Bもそこにいたんです。警察からの取り調べを受けた時、本人は「22時頃は家に帰っていた」と説明していましたが、スーパーマーケットの防犯カメラには、22時頃にその場所にいるBの姿が映っていました。

 このときBは、スーパーで友だちと一緒にいるAさんを見て犯行を決め、チャンスをうかがっていたんです。Aさんが友だちと別れて一人でスーパーを出たのを見計らって、BはAさんの後をつけていきました。つまりこの事件は、現場である空き地で起きたのではなく、AさんとBがスーパーマーケットで出会った瞬間から始まっていたんです。

犯罪現場は、スーパーマーケットから出て10分ほど歩いたところにある空き地。この道のりを、BはAさんのあとをつけて歩いていた
犯罪現場は、スーパーマーケットから出て10分ほど歩いたところにある空き地。この道のりを、BはAさんのあとをつけて歩いていた

──『「怪しい人に気をつけて」が子どもを危険に巻き込む』で、小宮先生は、「子どもを連れ去ろうと考えている人は、子どもがいそうにない、人通りがない道には行きたがりません。むしろ、子どもがたくさんいそうな、人通りがある道に現れるはず。そこで犯人は、連れ去るタイミングを計っているのです」と言っていましたね。

 その通りです。スーパーマーケットは、人が多くて明るいため、つい安心して警戒心が緩みやすくなります。まして友だちと遊んでいるときは、隙ができてしまうのも仕方ないかもしれません。ですが、スーパーマーケットから出るときは、ぜひ警戒心をオンにしていただきたい。少し意識を変えるだけで、犯罪に巻き込まれる確率はかなり低くなります。