子どもが体験できる場を見つけるのが親の役割

―― 昔は「親がなくても子は育つ」と言ったように、地域が子どもを育ててくれていたところがありましたが、それは現在ではもうないということですか。

 それは子ども達が集団で遊んでいた時代の話ですね。集団の中にいれば、リーダー、まとめ役、ムードメーカーなどの役割分担が自然に生まれ、その中で得られた経験がその子独自のものになった。しかしネットの場合はひとりで部屋でやるため、そういった役割が生まれることはありません。

 加えて、地域性がないというのもネットの問題点でしょうか。農業の盛んな地域であれば自然に関心が出てくることもあるだろうし、地域の独自性というのがどの場所にも必ずある。しかし、ネットはどこにいてもアクセスするのは同じ画面の中。独自性が一切ないんです。

 元気に外で遊ばせておくだけで、自分から経験を見つけてこられる時代もありました。しかし今では親がちゃんとサポートしてあげないと、子どもはチャンスを逃してしまうことになります。

 この傾向は今後も進んでいくでしょう。情報化も進行しますし、地域のつながりもどんどん希薄になっていくと思います。治安が悪くなり、大人が子どもを見ていない社会になっていく。そうならないためには大人がある程度場所を作ってあげないといけない。学校以外の場所で、子ども達が自分達だけで大人数集まることはまずできないですから。

 私達も千葉市と共同で「西千葉子ども起業塾」という子どものための無料で参加できるプロジェクトを実施しています。「西千葉子ども起業塾」は子ども達が実際に会社を立ち上げて、自分達で考えながら大人達と協力し、地域の活性化を目指すもの。半年にわたって月に1度、子ども達が千葉大学に通ってくる形式で、擬似通貨ですがお金を使ってビジネスとして成功させることも目指しています。

 これまでには西千葉で開催している「第三土曜市」という市場を盛り上げるため、フィールドワークを通じて自分達で「会場付近が暑い」「寂しい」などの問題を発見。解決するためにうちわに広告を載せて配布する会社、打ち水の発想をもとに水鉄砲で射的を行う会社、集客をねらいサッカーボウリングを行う会社を立ちあげました。

 昨年度からはJFEスチールという鉄鋼会社の見学会をサポートする仕事をしてもらっています。ロール状で出てくる鉄鋼をバームクーヘンに見立てて、「鉄鋼バーム」というオリジナルのお土産を実際のお菓子屋さんに発注するんです。子どもに本物の社長がアドバイスをしたり、独自の体験ができるものだと思いますね。「西千葉子ども起業塾」に限らず、社会にはこうした子どもの成長を促す機会がたくさんあるはずですよ。

藤川教授が担当する「西千葉子ども起業塾」の様子。子ども達が西千葉の「第三土曜市」を盛り上げるための課題を自分達で見つけ、それを解決するために起業する。子ども達と一緒に仕事をするのは、千葉市に実際にある会社で働く社会人だ
藤川教授が担当する「西千葉子ども起業塾」の様子。子ども達が西千葉の「第三土曜市」を盛り上げるための課題を自分達で見つけ、それを解決するために起業する。子ども達と一緒に仕事をするのは、千葉市に実際にある会社で働く社会人だ