子どもを安全に帰すための緊張感

 「びわ湖青少年の家」のハイライト、カッター漕艇は3日目の午前中だった。2日間、雨模様だっただけに、晴れ渡った琵琶湖がまぶしい。しかし、天気が良ければ熱中症が心配になる。子どもの命を預かる責任者として、緊張する。前回は1つのカッターに全員乗ったが、今日は2艇に分かれて琵琶湖に漕ぎ出す。前回はエンジン艇でカッターを追っかけながら撮影や応援をしていたが、今回は片方の船に乗り込んだ。カッターの櫂(オール)は10キロ以上ある。船の外側より、内側で漕ぐ子に負担がかかる。子ども達の体力、体調などを見ながら、配置を入れ替える。私も途中で児童と交代してオールを持った。重い。ずるっと水に引き込まれそうになり、慌てる。

 この重く長いオールを素早く立てなければ、湖面に浮かぶ鳥居は越えられない。指導スタッフがこまめにもう一艇や監視のエンジン艇と無線で連絡を取りながら、タイミングを見計らっている。2艇に分かれて良かったことは、お互いに応援できることだ。先に鳥居を越えようとする仲間たちが、「いーっちに!いーっちに!」と声と気力を振り絞っているのに、大声で子ども達が「がんばれ!」「もう少しや!」と叫ぶ。無事に通り抜け、拍手が起きる。離れているのに、心がハイタッチを交わしているかのようだ。そして、自分たちの船に声援が送られる。よし、越えよう。汗で滑るオールを必死で支え、鳥居をくぐった。やった!……向こうの船からも、歓声が聞こえる。子ども達の顔は、誇らしげだ。

今年の敷津小のテーマは「命を学び、命を大切にする子どもを育てる」こと。子ども達は、命を守るための着衣水泳の授業を学校で事前に受けてから、自然体験に臨んでいる
今年の敷津小のテーマは「命を学び、命を大切にする子どもを育てる」こと。子ども達は、命を守るための着衣水泳の授業を学校で事前に受けてから、自然体験に臨んでいる

 ただ、この感動にのまれると「来年も鳥居を越えたい」「あの感動を体験させたい」と、安全への判断が狂う。最近、組体操で作るピラミッドの巨大化による事故が、教育現場では問題になっている。「感動」を目指し、昨年できたことと同等かそれ以上を求めてしまわないよう、冷静さが必要だ。1つひとつのプログラムを終える度に、安堵する。時に、予定したことができない場面もあるが、子ども達はそれほど落ち込まない。今回は、雨天プログラムで急遽実施した「まが玉作り」が大人気だった。

 学校に到着すると、子ども達を迎える保護者が並んでいる。無事に帰せてよかった。特に健康管理で共に気を張ってくれていた、養護教諭と喜びあう。バンザイ!

 今回も、「びわ湖青少年の家」で一生物の経験をさせてもらった。復活したこの施設が、安全な中で豊かな自然体験をさせてやれる施設であり続けることを、願っている。