1985年に連載が始まった漫画『クッキングパパ』(講談社)。働く妻と家事・子育てを分担しながら管理職として働くイクメン・イクボスの元祖とも言える主人公を生み出した作者はどんな人なのでしょうか。日経DUALで料理企画に挑戦中の名言ハンター、大山くまおさんが直撃しました。「子どもが美味しそうに食べる料理を作る秘訣は?」という切実な質問に対するうえやまさんの答えは?

※前編「クッキングパパは30年前からイクメン・イクボス」もお読みください。

「おにぎらず」の産みの親はクッキングパパ 25年前の漫画に登場

―― いまさらお聞きするまでもないと思いますが、うえやま先生ご自身も料理がお好きだったのでしょうか?

うえやまとちさん(以下、敬称略) はい、毎週作ってますよ。いまや料理を作るのが仕事になってしまいました。100話ぐらいなら料理のレパートリーがあると思っていたんですけど、実際に100話まで続いたときは「ようやるわ」と自分でも思いましたね(笑)。あとは締切と追いつ追われつです。こっちもいろいろと勉強しましたし、美味しいものがあると聞いたら、すっ飛んでいきました。100話は10巻分ぐらいですから、残りの120巻分はそうやってやり続けてきたんです。

―― アイデア料理も多いですが、餃子を皮から作ったり、ケーキをスポンジから作るなど、手間暇かけた料理が多いのが印象に残っています。

うえやま 手抜き料理も多いんですけどね(笑)。料理にはいろいろな切り口がありますから。最初の頃は、「カレー」とか「ケーキ」という切り口だったんです。今は料理の種類がものすごく細かくなりましたよね。チョコレートのケーキだけでも種類がたくさんあるので、いくらでも描ける。カレーだけでも40種類以上描いてきましたから。グルメとでも言うのでしょうか、食べ物の種類は本当に細かくなってきましたね。

―― 今、流行の「おにぎらず」も、『クッキングパパ』のレシピが元なんですよね。

うえやま あれはうちのかあちゃん(妻)が考えたんですよ。炊きたてのごはんでパパッと作っているのを見て、「それいいね、描かせてよ」と。「おにぎらず」という名前だけは自分でつけたんです。

―― 描かれたのは1990年(22巻収録の「COOK.213超簡単おにぎり おにぎらず」に登場)ですが、25年を経て、おにぎらずは突然大ブームになりました。

うえやま 「何事?」って感じです(笑)。とっても簡単な料理ですからね。

―― 普段は奥様も料理をされるんですか?

うえやま 僕は毎週『クッキングパパ』のための料理を作っているんですが、普段の料理はかあちゃんが作ってますよ。

 ただ、ウチはかあちゃんが陶芸家だったんですが、「ごはん作って」と言っても、手が土まみれだったりするんですよ(笑)。だから僕も料理を作っていたんです。

―― 役割分担というか、その場で作れるほうが作っていったわけですね。

うえやま そうそう。

―― こうして30年間続ける原動力が、『クッキングパパ』のカバー折り返しにずっと書かれている「料理って、楽しいんですよーっ!!」という気持ちであり、メッセージだと思いました。

うえやま それですね。楽しいです。料理を作ることも、レシピを作ることも、漫画を描くことも楽しいです。

―― 僕は料理ができない夫なので、日経DUALで先生に料理を習うという企画(連載「おおやまくまおの『ダメパパ、厨房に入る』」)をやっているのですが、子どもが美味しそうに食べる料理を作るにはどうすればいいんでしょう?

うえやま まず両親が美味しそうに、楽しそうに食べることです。あんまりおっかなびっくり食べないこと(笑)。「美味しい!」と言って美味しそうに食べれば、一生懸命美味しいものを作ろうと頑張るものですよ。あとは、笑顔で作ること。失敗しても笑顔でいいじゃないですか。奥さんも、もし旦那が初めて料理を作ったら、「美味しい!」と食べてあげてください。そうしたら旦那も「そうかぁ?」なんていい気になって、また作るようになりますよ。少しずつ慣れてきたら、「終わったら片付けてね?」なんて言えばいいんです。

―― 荒岩もよく「料理は失敗してもいい」と言っていますね。

うえやま 失敗から生まれる料理もあるんです。パンの生地がうまく膨らまないからピザにしちゃうこともありますし、作りかけの途中が美味しいからそのまま食べてしまう「トチュー」(78巻収録の「COOK.760夢のトチュー」に登場)という料理もありますよ(笑)。料理はライブなんです。前回と同じように作っても、違ったものができたりする。だから料理は面白いですね。

―― 料理も夫婦も柔軟がいいんですね。

うえやま でも、絶対に妻に夫は勝てませんから(笑)。夫婦は年をとるとともに、どんどん奥さんが強くなっていきます。このことを胸に刻み、夫たちは絶対に妻にケンカを売らないことです(笑)。