食糧危機の到来を叫んだ二大「予言書」は正しかったか?

 川島さんによると、食糧危機説が広まるきっかけは決まって「予言書」の出版です。今に至る流れのルーツと目されるのは、1972年に世に出た『成長の限界』(デニス・メドウズ著・ダイヤモンド社刊)。世界経済の成長と人口増加はいずれ地球のキャパシティーという制約による限界に直面すると予測し、世界的なベストセラーになりました。

 「この本に従えば2000年、地球上の人口は70億人に達し、世界的な食糧危機が起きているはずでした。しかし実際には2000年時点の人口は60億人台でしたし、仮に70億人まで増えていたとしても同じ時期の食糧生産量からいって食糧危機は起きませんでした」

 その後20年を経て、再び食糧危機説を世界に想起させたのは、1995年の『だれが中国を養うのか?』(レスター・R. ブラウン著・ダイヤモンド社刊)です。こちらは中国の目覚ましい経済発展が食糧危機をもたらすと予測しました。中国の人々は所得の向上に伴って、肉や乳製品を大量に食べるようになる。いきおい家畜の飼料としてのトウモロコシや小麦の需要が激増し、それが世界的な穀物不足を招くのだ……と。

 「しかし、これも外れました。確かに90年代に入ってから中国の飼料需要は増えましたが、そこで使われたのはもっぱら大豆ミール(大豆から食用油を絞った後の絞りかす)だったからです。ならば大豆が世界的に不足したかといえば、ブラジルが中国の需要に応えて増産・輸出したため、それもありませんでした」

 ここで注目すべきは、中国が必要とした量の大豆をブラジルが難なく増産した事実でしょう。ブラジルだけを見ても、それくらいの生産余力があったわけです。

中国で肉や乳製品の消費が拡大することによって家畜の飼料が増え、穀物不足を招く…という予言は外れた
中国で肉や乳製品の消費が拡大することによって家畜の飼料が増え、穀物不足を招く…という予言は外れた