男性から「普段、ママが言ってることってこういう背景だったんだ」って(大槻)

大槻幸夫さん。サイボウズコーポレートブランディング部長。自社メディア「サイボウズ式」初代編集長。ワークスタイルムービーの制作を担当した
大槻幸夫さん。サイボウズコーポレートブランディング部長。自社メディア「サイボウズ式」初代編集長。ワークスタイルムービーの制作を担当した

小田 では次に、大槻さん、自己紹介をお願いします。

大槻 サイボウズでコーポレートブランディングを担当しています。分かりやすく説明すると、サイボウズをより多くの方に知ってもらうための企業コミュニケーションの仕事をしていまして、今回のCM制作を担当しました。本当に素朴な思いで制作を進めていったのですが……。

小田 もともとどんなアイデアだったんですか?

大槻 サイボウズって毎年、4月1日のエープリルフールに、くだらないネタをやるんですよ。「2014年はどうする?」って話があったとき、「サイボウズの取り組みを知ってもらえることを何かやろう」と青野からリクエストがあって。

 僕らはずっとワークスタイルをテーマに会社として取り組んでいるので、そこを伝えられないかと考えたとき、「一番苦しんでいるのは働くママだから、その視点で何か伝えられないかな」というオーダーが青野から来て、そこからスタートしたんです。

羽生 あのセリフは大槻さんが考えたんですか?

大槻 東北新社という制作会社で、監督とプロデューサーとプランナーの3人がワーキングマザーさんなんですけれども、監督さんが「自分の日常を描くような感じで書きました」といった脚本になっています。

羽生 じゃあ、割とママの気持ちをひねったりしないでそのままストレートに出している感じなんですね。

大槻 そうですね。最初、依頼したときに向こうから「違和感がある」と言われて。もともとCM制作では、商品とか会社からの提案を落とし込むプロなので、「そこで正否は出しません」と。「これだと、ただ単にあるあるを描いたものだ」と。「本当にそれでいいんですか? サイボウズさん」というやり取りがあったんですね。

 作っていく中で、そうはいっても僕らも「暗く終わるのは違うかな」という思いがあって、最終的に、お父さんが頑張って帰ってきて(お母さんが)待ってるとか。「パパとママがお互いに『仕事終わったよ』とかメールし合うようなかたちでどうですか?」と提案したら、逆に向こうから怒られて。「そんなことあるわけがない」と。「そんな都合よくいきませんよ」と。「ママは大変なんです、逆にリアルなんです」と説教されまして。そうして出来上がったのがあの作品だったんです。

小田 本当に背伸びもしないリアルを描いた、と?

大槻 そうです。第2弾のほうも、実は同時並行で作ってまして、最初、『大丈夫』のほうがかなり重い感じの内容だったんです。でも、同じテイストでもう1個作るって、反応の見えないなかでなかなかリスクが高かったので、もうちょっと明るい、テンポのいいものを作っておこうか、と。スピンオフという表現をしているんですが、アンサーは出していないんですけど、1作目の評判がやたら高くなってしまって、「これ、次来るぞ、やばいぞ。やばいなあ」って。

一同 (笑)

青野 僕らのなかでは同時に作って、しかも1作目のほうが、思い入れがあって作ってるからね。

大槻 結果としてあれだけ話題になって、皆さんがネット上ですごい発信してくださって、それがまた理解を深めたところがありましたし。個人的にはパパに見てほしいなと思ったんですね。イクメンじゃないパパに。

 そうすると、2作目を見た人の批判を見たパパが、「いやいや。これすごく感じるところがあったよ」といったコメントがちらほらネット上で出たんですよね。

 一番よかったのはブログで「普段、こういう話はネットでよく見る」と。「通常はなんだか理想をロジカルで押し付けられるようで見ていられなかったけど、ムービーで見ることで、普段、ママが言ってることってこういう背景だったんだ、こういう状況で言ってたんだな、とすっと入っていけた」と。

小田 パパ達って、ママの大変な状況を分かってなかったんだ。

大槻 そうなんですよ。

界外 私もそう思いました。分かってなかったのかって。

大槻 男性ってそういうところあるから。だから、そんなに意識の高くない、育児を手伝う感覚のパパに対する伝え方っていうのが、こういう伝え方をするとああいう反応があるんだというのが発見でしたね。

小田 自分の妻から直接「大変だ、大変だ」と言われるよりも、違うママが「大変だ」と言っているのを客観的に見たほうが、「もしや、うちもそうなのかも」となるのかもしれないですね。

陶山 他人から指摘されると素直に受け入れられないことであっても、客観的に見ることができると、「このままじゃいけない。なんとかしなくちゃ」という気持ちになれることってあると思うんですよね。

 そういう意味で男性からすると、自分と目線がちょうど同じくらいか、ちょっと目線の下くらいのものを見たときに、「ああ、俺だったらもっとやってあげられるのに」みたいなところで思考の転換が起こりやすいんじゃないかなと、一連のやり取りを見ながら思いましたね。

大槻 “自分事化”が起こるんですよね。

陶山 そうなんですよね。他人が言うのをただ聞いているだけだと腹落ちしないんですよね。