他の人にはない強みをどう磨くか、常に意識することが大事
羽生編集長(以下、羽生) 先ほど、20代は迷いが多い時期だったとおっしゃっていましたが、どんな葛藤があったんでしょうか?
行正り香さん(以下、敬称略) 働き始めて数年で確信したのが、世の中には逆立ちしても勝てない才能のある方がごまんといるということ。電通には左右を見渡すだけでも、天才肌のクリエイターがごろごろといました。
時には無力感も覚えながら「私に何ができるんだろう?」と考えていましたが、私に与えられたのは、海外向けの映像制作という仕事。華やかな広告賞をいただけるようなメインストリートの仕事ではなく、いわば“隙間産業”的な仕事です。
予算もつかず地味である半面、一人で海外に行って、現地の制作会社と映像広告をゼロから作るので、力はつくことは実感していました。何より英語を活かしながら映像を作るのは楽しかったし、好きだった。だったら私はこの道でやっていこう、と肝が据わったのは26歳(=人生時計:午前8時半過ぎ)の頃です。
羽生 専門性を磨くという決断をされたのですね。
行正 キャリアプラニングにおいては重要な視点だと思います。組織の中では常にポジションニング競争が起こっていて、経営者の視点に立てば、「これしかできない」ともいえる強みのある人材は残しておきたい。「何でもできる」だけだと便利に使われるだけなんです。だから、他の人にはない強みをどう磨くか、常に意識することが大事だと思います。
特に女性の場合は、結婚や出産で人生の振れ幅が大きいし、「辞める」という選択が許される性。「2~3年、休んでもいいかも」と棚の上のお餅に手を伸ばせば、簡単に食べられる性ですよね。
覚悟が固まるまでは揺れるもので、私も30歳手前で何もかも一人で任されるようになったとき、上司に「つらいから外してほしい」と泣き言を言いました。そのとき、「戦闘機に乗っているんだから、降りちゃダメだ」と叱咤されて、ふっと気持ちが定まったんです。そうか、仕事だから私がやり切らなければいけないんだって。あのときの上司には感謝しています。
羽生 今日お会いするまで、行正り香さんという女性はほんわりと柔らかい雰囲気をお持ちの方というイメージを持っていましたが、実はタフなご経験が豊富で、心持ちもかなり筋肉質。内面はマッチョな女性なんですね!
行正 ハイ、そうなんです(笑)。