子どもを預けるのはプラスの面のほうがはるかに多い

羽生 「子どもを預ける」という抵抗感がまだまだ世の中にありますが、行正さんの場合はどのようにお考えでしたか?

行正 プラスの面のほうがはるかに多いと思います。信頼できる預け先を選ぶプロセスがとても大事になりますが、子どもに豊かな人間関係を与えることにもなり、素敵な方々にお金をお支払いできるというのは幸せなこと。何より、預けている時間は思い切り仕事に打ち込めて、自分自身に時間を与えるという投資になりますよね。

 私の場合は、毎月預ける時間を一定に決めて月極めでお支払いしていました。時には仕事が早く終わって余剰の時間も生まれますが、その間に映画を観たり、友達と食事をしたり、普段できないことをする。すると、自分自身を磨けてマーケットにいられるんです。「シッター代がもったいない」と単純な損得勘定ではなく、中長期的な視点で価値をはかったほうがいいと思います。

 アメリカでは月給17万円の母親が保育コストに月22万円をかけるなんて、よくあること。「5万円の赤字はキャリアを維持するための一時的なコストであり、仕事でポジションを獲得して収入を上げて数年後にはペイする」という考え方で、子どもを産んでも保育コストを惜しまずにかけて、早めに職場復帰するケースが主流なんです。育休も最長6カ月が原則です。長期的なキャリアを考えている日本の女性たちの場合も、そのような感覚を持つという選択肢もあると思います。

時には必要なコストをかけながら、自分のキャリアを守っていく意識が必要

羽生 葛藤がありますよね。時短勤務や育児休暇のような守られる制度が拡充する動きがある一方で、現場の仕事は「待ったなし」で進んでいくという。

行正 日本社会はサポート不足、というイメージがありますが、システムとしてはアメリカよりも進んでいると思います。ただ、個人のマインドがまだ「育てながら働く」ことにフィットしきれていないのでしょう。DUAL世代の親世代に専業主婦が多かったという影響も大きいと思います。ただ、仕事を与えてくれる会社は福祉機関ではないので、「一度ゲットしたポジションはずっと守られる」というのは幻想かと思います。危機感を持って、時には必要なコストをかけながら、自分のキャリアを守っていく意識が、これからの社会では、より必要とされるかと思います。

羽生 ご自身も子育てをしながら、キャリアの専門性を磨かれてきたんですね。

行正 気づけば17年も勤めていました。