漠然と働いていた時間は取り戻せない

 そうは言っても、現役のうちは、なかなか働くことについて振り返る機会も余裕もないですよね。就職したばかりのときのことを思い出してみてください。他にやりたいことがたくさんあるのに、仕事だけで一日が終わってしまう。学生時代と比較して、あまりに忙しい毎日に不満を募らせていたはずです。若いころほど、「耐えるものとしての仕事」という意識が強かったでしょう。しかし、徐々に仕事中心の生活に慣れ、10年も働き続けていれば何も感じなくなります。

 私が定年退職した男性から聞いて印象的だった話を紹介します。どうして40年という長い間、働き続けることができたのですかという質問に対して、ある男性は次のように答えてくれました。

「ある時点までは我慢でしたね。要するにそれでマヒして慣れてくるんですね。そういう適応能力ってあるじゃないですか、人間って。だからそういうことで乗り切ってきたのかもしれませんね」

 フルタイム労働に順応したことに対して、「立派な社会人」になったと評価することはもちろん可能です。しかし一方で、働くことにいくら疑問を持っても仕方がないので、考えるのをやめてしまったという見方をすることもできます

 働き続けることに疑問を持つことなく仕事を続けた結果、この男性は現役時代について「残念」という言葉でまとめていました

「とにかく食べていかないといけないから働くじゃないですか。でも、そのまま仕事に流されていった感覚があります。漠然と働いていたときの時間は戻せない。結局自分の力はそのくらいという意味で、現役時代は残念でした」

 もちろん、仕事を今すぐ投げ出すことなどできるはずもありません。家族にも会社にも迷惑を掛けてしまいます。ただ、現役で働いているパパ達は、定年退職した男性が「戻せない」と語っている時間のただ中にいるのです。自分にとって「働くこと」の意味を見直す機会をつくり、ぜひしっかりと仕事について考えてみてください。漠然と過ごしていれば、あっという間に時は過ぎ、定年を迎えてしまうことになります。