「あなたの名前は女の子なんだからジョイよ」と言われて

羽生 会頭ご自身が私達にとっては輝かしいロールモデルです。よい女性リーダーになるうえで、女性ならではの強みと弱みは何だと思いますか。

ポナゼッキ はじめに個人的な体験を少しお話しします。「ジェイ」という私の名前は男の子の名前なのですが、小学校に入学した最初の日、先生は「あなたの名前は女の子なんだからジョイよ」と言ったのです。そこだけで会話が20分くらい続き、「先生も間違えるのだ」という印象が強く残りました。また私はフィギュアスケートをやっていたのですが、「あなたは背が高いから細かい動きはできない」などと、可能性にふたをしてしまうコーチもいました。身長や名前といったものにとらわれて制限をかけることに私は抵抗したいし、他の女性に対しても、自分に限界を設けずにチャレンジしてほしいと思ってきました。

 仕事について言うと、私が学校を出て弁護士になった当時、お手本になる同世代の女性弁護士はあまりいませんでした。そこで私はクライアントや隣の席に座っている弁護士など、様々な人から自分に対するコメントを聞くようにしてフィードバックを集めました。ロールモデルがいないと言ってしまった時点で、もしかするとそれは制限をかけることになっているかもしれません。一歩下がって広い目で見てみると、よいインプットをもらえる人はまわりにたくさんいます。

 強みという質問について、男女の違いを切り口に話をするのは好きではないのですが、非常に一般化して言ってしまうと、女性の方が聞く耳を持っているかもしれません。かつては男性が一日中、自分達の話をしていて、それを横で聞いているのが女性の立場でした。これも私の経験から言うと、交渉の場やクライアントとの話し合いの場において「この人はよく聞いているな、理解しているな」と思ってもらえることが、信頼を構築する一つの鍵になります。私が話をよく聞いていることに気付いたクライアントは、重要な問題を男性弁護士ではなく私に相談してくれるようになりました。聞き上手であることは女性ならではのアドバンテージになると思います。

 個人的には弱みの話をするのは好きではありませんが……。あえて言うと、これもJ&Jのデイビッドさんがおっしゃっていたことですが、エグゼクティブのメンバーが後継者世代の人達に「会社でどんなことがしたいか」と聞いても、女性からはなかなか回答が返ってこないということがよくあります。遠慮だとか、実際にそこまでキャリアについて考えていないとか色々な理由があるのでしょうが、ぜひこれは言葉にして伝えていくべきだと思います。言わなければあなたの意思を上司が知ることはないし、一方で男性は、トイレやコーヒーブレイクなど色々な機会で上司に「こんなことがしたい」とアピールをし、「こんなチャンスがある」といった情報も得ているかもしれません。

困難に行き当たったら、自分の発想を数歩下がって見てみて

羽生 様々な困難を抱えながら働く母親として頑張っている日経DUALの読者に向けて、メッセージをお願いします。

ポナゼッキ 達成する価値のあるものというのは、往々にしてその道のりは困難です。困難に行き当たったときには自分の発想や考え方を数歩下がって見てみてください。まずは自分に対して質問をしてみます。前提条件だと思っていることが、実は違うかもしれないのではないか。自分に制限をかけているものは何なのか。そして、何が自分にとって一番大事なのか。時には優先順位を変えなければいけないこともあるかもしれません。今はグローバル化が進んでデバイスも発展しているので、仕事がエンドレスで降ってくるという状況があります。そういう現実の中で、先ほどの問いを常に自分に投げかけてみることが大切です。

 今は将来に向かって変化を起こしていける、ある種非常に意味深い局面にあると思います。端的に言うと、たとえば仕事をしている母親は自分の娘に対して、将来大人になったときに仕事か家庭かどちらかではなく、両方選べるという前提を作り、次世代のロールモデルになることができる。息子に対しても、働く母親を見て育つことで、将来職場で女性の同僚に接したり、女性の部下を指導したりするときのあり方に影響を与えることができるのです。

(取材・文/谷口絵美、撮影/鈴木愛子)