この連載では、立正大学で地域の安全や犯罪予防を研究する小宮信夫教授が、子どもが犯罪被害に遭わないためにどうすればいいかについて、実際の事件や事故を元に検証しながらお話ししていきます。前回の記事では、防犯訓練に取り組む前に知っておくべき基礎知識について説明しました。今回から、いよいよ実際に起きた事件を検証します。

 今回取り扱う事件は、「神戸連続児童殺傷事件」です。1997年に起きたこの事件は、先日犯人による手記が出版されたこともあり、18年経った今も高い関心を集めています。しかし、「これだけ注目されているにもかかわらず、この事件がなぜ起きたのか、こういった事件を起こさないためにはどうしたらいいのかについて冷静に分析している情報はあまりにも少ない」と、小宮教授は言います。この事件から、どういったことが分かるのでしょうか。お話を聞いてみましょう。

少年が女児を公園から連れ出した理由とは

──神戸連続児童殺傷事件の犯人が手記を出版し、話題になっています。センセーショナルな事件なだけに、どのように接すればいいか、DUAL世代の子どもを持つ親は戸惑っていると思います。

 確かに、あれは痛ましい事件でした。事件が起きたのは1997年でしたから、もう18年になるんですね。

 犯人が中学生だったり、猟奇的な一面があったりしたことから、多くの人の関心を引き、また今回犯人の手記が出たということでマスコミも注目しているようです。

 仕事柄、私も色々と関連資料を読んでみましたが、犯人の心理分析や犯行の異常さにスポットを当てた報道ばかりで、犯行を冷静に分析しているものが見つかりませんでした。

──この事件からも、子どもが犯罪に巻き込まれないために気を付けるべきポイントを見つけることができるのでしょうか。

 はい。では一緒に事件の概要を見直してみましょう。

 この一連の事件のなかで、痛ましくも2人の子どもの命が犠牲になっています。他に、子どもが負傷した事件もいくつかありましたが、今回は殺害事件のみ考えてみることにします。

 まず、3月16日に起きた、小学4年の女児が殺害された事件について考えてみましょう。犯人の少年は、最初の犯行を自分が住む友が丘ではなく、隣にある竜が台まで自転車で移動して実行しています。自宅周辺は犯行が発覚しやすいから避けたと少年は供述しています。

 少年は、子ども達が遊んでいる公園に行き、そこで被害者と出会います。しかし、実際の犯行は、この公園では行っていません。それはなぜかというと、この公園が「見えやすい」公園だったから。

 犯罪が起きやすい場所を見分けるポイントは「入りやすく、見えにくい」ということ。「入りやすい場所」とは、誰でもたやすく入れて、他の人に違和感を与えない場所です。「見えにくい場所」とは、木々に囲まれていたり、建物の陰になっていたりして、子どもの姿がよく見えない場所(詳しくは前回の記事を参照)。被害者が遊んでいた公園は、周りにマンションが立ち並び、いつ何時住民に窓から見られるか分からないような場所でした。だから少年は、この場所で犯罪を犯すことができなかったんです。

1997年6月17日に撮影された、神戸市須磨区の竜が丘公園。周囲には住宅が並び、「見えやすい」場所になっていた(写真:読売新聞/アフロ)
1997年6月17日に撮影された、神戸市須磨区の竜が丘公園。周囲には住宅が並び、「見えやすい」場所になっていた(写真:読売新聞/アフロ)