100%防ぐことは不可能。でも確率を上げることはできる

 次に少年が犯行に及んだのは、それから2カ月後の5月24日。実は、女児が殺害された後、この事件が起きた竜が台では、「竜が台通り魔対策委員会」が結成され、危険な場所のパトロールが行われるようになりました。ところが、その隣町である友が丘では、竜が台のような本格的な防犯活動はまだスタートしていませんでした。タンク山の向こうとこっちでは事情が違うとされたのかもしれません。

 少年は、次の犠牲者を探しているうちに、そうした雰囲気の地域差を感じたかもしれません。その結果、隣町での犯行は難しいと判断し、自分の町で実行することにしたと思われます。少年は、弟の友達だった小学6年生の男児に街中で偶然出会うと、この男児を殺害しようと思い付きます。そこで、「カメを見に行こう」と誘い、タンク山山頂にあるケーブルテレビアンテナ基地局に連れていき、犯行に及んだのです。

──被害者からすれば少年は「知っている人」ですよね。「知らない人にはついていくな」と言い聞かせても、こういうケースは防ぎきれませんね?

 相手が「知っている人」でも原則は同じです。そうした「危険な景色」に連れていこうとしたら、警戒する必要があります。

 誘ってきた相手が知人だとしても、「ママに行き先を言ってから行こう」と提案すれば、犯行意図が無ければ「そうしよう」と返答するだろうし、犯行意図があれば「もういいよ」と誘いを撤回するでしょう。

──やはりどんな場合でも、「入りやすく見えにくい場所」で事件が起こりやすいという原則が当てはまるのですね。

 その通りです。神戸連続児童殺傷事件は、2つとも「見えやすい」場所から「見えにくい」場所へと移動し、犯行に及んだケースです。センセーショナルな事件なだけに、つい異常性に目が奪われがちですが、犯行自体は非常にシンプルな構造だったんです。

 もちろん、この原則をしっかり覚えていても、犯罪被害を100%防げる保証はありません。今回の事件現場は、確かに原則通りの場所でしたが、子どもが原則通りに行動できるかは、子どもや犯人のコンディション次第だからです。さらに、偶然の要素も影響するでしょう。

 しかし、100%防げないからといって防ぐための対策を放棄していいのでしょうか。親が子どもの安全を守るためにできることは、犯罪被害を防ぐ確率を上げるための努力です。その確率を上げていくために努力することは、決して無駄ではないと私は考えています。

子どもがよく行く場所や道を一緒に歩き、危ない場所と安全な場所の違いを親子で話し合ってみましょう(写真撮影:勝山弘一)
子どもがよく行く場所や道を一緒に歩き、危ない場所と安全な場所の違いを親子で話し合ってみましょう(写真撮影:勝山弘一)

(取材・文/井上真花)