家を買う予算はどう決めるべきか

 先ほど紹介したポイントのなかで最も重要なのは「予算」です。大抵の場合は当初より予算が膨れ上がる傾向にあります。思ったより安く済んだという話はまず聞きません。「せっかく買うのだから」「一生に一度の買い物だから」と何百万円も予算が膨れ上がってしまう状況です。ただ、言うまでもなく500万円や1000万円という金額は多くの人にとって人生を左右する額です。ローンの返済で生活が苦しくなってしまっては本末転倒ですので、まずは予算で「正しく」悩んでほしいと思います。

 相談者の多くが、家の購入予算を決めるに当たって「できるだけいい家を買いたい、でも返済できるか心配」というはざまで気持ちが揺れ動いています。ここでいう「いい家」とは「値段が高い家」です。立地がいいとか住宅の質が高いということはほぼイコールで値段が高い家を意味します。

 普段の相談で「世帯年収1000万円で2000万円のマンションを買いたい」とか、「世帯年収500万円で1億円の家を買いたい」という内容はまずありません。相談するまでもなく「この予算なら問題ない」とか「これは無理だ」と分かるからです。つまり、多くの人は収入に対してギリギリ買えるかどうかの予算で検討しています

 「買える範囲で一番高い家を買う」。そんなのは当たり前じゃないかと思うかもしれません。実際、多くの人が無意識にこのような判断をしていますが、「チキンレースのように予算を決めてはいけない」と私はアドバイスしています

チキンレースのような予算の決め方とは?

 チキンレースとは崖に向かって車を走らせて、相手よりも崖に近いところで止まったほうが勝ち、という危険なゲームです。当然、崖から落ちたら死んでしまうので負け、手前過ぎても負け、つまりギリギリを見極めるゲームです。予算の決め方と非常に似ています。

 ただ、家の購入がチキンレースと違う点は、「崖の位置」がはっきりしていないことです。ここで止まればギリギリ大丈夫、返済に問題はない……と思っていたら、教育費や老後の費用が予想以上にかかることが後から分かり、実は崖から大きく飛び出していたということがあるかもしれません。

 つまり住宅購入のチキンレースは崖に「モヤ」がかかっているのです。将来の収入・支出ははっきりとは分からないのですから、ある意味で当然です。従って相談者には「500万円とか1000万円とか予算を下げればリスクは大きく下がりますよ」といつもアドバイスしています。

老後にお金が余ると後悔する?

 なぜ多くの人がギリギリまで高い予算で家を買おうとするのでしょうか? 私なりの結論は「老後にもっといい家を買えたのにと後悔したくないからでは」ということです。

 ただ、老後に思った以上に余裕があり、「もう1000万円高い家を買っても大丈夫だったのに」と後悔したとします。これはそこまでひどい状況でしょうか? 老後に資金的な余裕があるのなら、かえっていい状況と言えるかもしれません。お金の使い方は人それぞれですが、少なくとも貯金が尽きて生活に困る状態よりよっぽどマシです。完璧な予算で家を買い、老後資金も想定通り、亡くなった時点で貯金がゼロ、という状況は理想かもしれません。ただ、当然ながらそのような状況に至ることは偶然以外にありません。

【ポイント】
 少しでもいい家を買うために家計が破たんするリスクを取ることは、決して正しい予算の決め方ではありません。ギリギリを狙うのではなく、リスクを抑えて無理のない予算にする、お金は余るくらいでちょうどいい、と考えてください。