7枚目のアルバム『スマイル ―母を想う―』をリリースしたオペラ歌手の幸田浩子さん。タイトルにあるように幸田さんが母親を想うときに浮かんできた数々の曲が収録されています。子どものころ、母親に聞かせてもらった音楽の想い出、そして東京藝術大学への進学につながった幸田家の音楽教育、さらには親子でのコンサートの楽しみ方について、お話を聞きました。

こうだ・ひろこ:東京藝術大学声楽科を首席で卒業。ボローニャ、ウィーンで研鑚を積む。2000年にはオーストリアの名門歌劇場ウィーン・フォルクスオーパーと専属契約。『ファルスタッフ』ナンネッタ、 『魔笛』夜の女王等数々の公演に出演。国内では二期会、新国立劇場等の公演で『ナクソス島のアリアドネ』ツェルビネッタなど主役級を演じる。2012年からはBSフジにて音楽&トーク番組「レシピ・アン」(毎週土曜18:30)にMCとしてレギュラー出演中。

2015年7月には宮本亜門演出東京二期会『魔笛』でパミーナを演じた。8月にはびわ湖ホールにて沼尻竜典作曲『竹取物語』かぐや姫に出演予定。また、2015年4月22日には7枚目のソロ・アルバム『スマイル -母を想う-』をリリースした。二期会会員。

両親が聞かせてくれた音楽が生きていく礎になった

――先日発表されたアルバムのタイトルは『スマイル ―母を想う―』ですが、「スマイル」「母を想う」という言葉に込められた意味は?

 7枚目のCDを出すというお話をいただいて、どんな曲を収録しようかと考えたときに、候補の曲が何百曲もありました。その中から、今一番歌いたい曲を探していくうちに、チャップリンの映画『モダン・タイムス』のテーマ曲『スマイル』が浮かび上がってきました。『スマイル』は、「涙よりも微笑みが素敵だよ」ということが繰り返し歌われている曲なんです。この曲を中心として、「大丈夫だよ」と優しく励ましてくれているような曲を集めることにしました。

 昨年亡くなった母がまだ闘病中のころにこのCDは企画進行していたので、母が歌ってくれた子守歌や、母が大好きだった『サウンド・オブ・ミュージック』など、母への私のパーソナルな想いが詰まっています。

 「今歌いたい曲」「わたしの大好きな曲」を集めているので、母の知らない曲もありますが、どれも全部、私が音楽にあふれた家に生まれ、音楽が好きな両親に育てられて、音楽と共に生きていく礎となった大切な曲達です。

 このアルバムを聴いてくださった方々が、音楽にふれて生きてきたこと、ご自身のお母様のこと、自分が母になって思うことなど、色々な感情を抱き、その皆様のパーソナルな想いとつながることができたら…と思っています。

――シューベルトやモーツァルト、ブラームスの子守歌はドイツ語で歌われていますね。もしかして幸田さんの母親も、ドイツ語で歌われたのですか?

 母が歌ってくれたときはもちろん日本語でした(笑)。ドイツ語で歌ったのは今回が初めてです。

 私が日本語で聴いていたように、これらの子守歌は世界中で愛されていて、今この瞬間も世界中で歌われています。すごいことですよね。

──子守歌をレコーディングして改めて感じたのは?

 西洋の子守歌の共通点は「聴いて安らぐ」ことですね。あなたは大丈夫だと背中をなでてくれているような、毛布や母の腕にくるまれているような、優しい歌です。歌詞の中に「神さまの子ども」というような宗教的な表現があるのも特徴です。

 日本の子守歌は、ねえやにおぶわれて母を想うような、どこか寂しげな雰囲気で、西洋とはまた違いますね。

――映画『サウンド・オブ・ミュージック』の曲も収録されていますが、お母様がお好きだったのでしょうか?

 はい。『サウンド・オブ・ミュージック』は今年、50周年だそうですが、母がずっと好きな映画でした。そして、私が一番最初に映画館で観た映画でもあります。まだ字幕が読めなかったので、5歳以下でしょうか。それ以来、ビデオやDVDで何度観たのか、わからないくらいです!

 『サウンド・オブ・ミュージック』の中の曲は、『ドレミの歌』や『エーデルワイス』など、日本でも今でも歌われています。母は小学校の音楽の先生だったので、教材として子ども達にもよく鑑賞させていたようです。

 母の希望で、最後に行った海外旅行は、ザルツブルク、『サウンド・オブ・ミュージック』 ゆかりの場所を巡る旅でした。あのザルツ・カンマーグートの草原の景色はずっと忘れることはないと思います。