病気の子どもは母親が見るべき。その思い込みから自由になろう

 もう一つ、病児保育が広がらない理由として僕が考えているのは、人の「意識」です。

 一般財団法人日本病児保育協会から発表された最新の調査結果では、「子どもが病気になった時の対応」として「母親が仕事を休む」が62.7%と、「父親が仕事を休む」の7.8%に比べて圧倒的多数でした。

 他の設問回答を見ても、父親・母親共に仕事を持っている共働き家庭でも、子どもの体調不良に伴う予定変更に母親が対応することが第一選択肢になっている現実が、改めて浮き彫りになっています。そして、「病児保育サービスを利用したことがある」という回答は全体の11.7%。たった1割という現状です。

 この「子どもが病気のときには母親が看るのが当然」という社会全体の空気が、病児保育を“社会インフラ”にする際の障壁になっています。病児保育は母親が解決すべき問題——。その思い込みは、母親自身にも呪縛のように存在しています。

 でも、本当にそうなのか、母親自身も、社会全体も考えてみるべきです。出産して親になったという経験だけで、わが子の病児対応を的確にできるなんて保障はどこにあるのでしょうか? 命にも関わる病児対応だからこそ、「認定病児保育スペシャリスト」などの資格を有する専門知識のあるプロに委ねたほうが安心できるということはないでしょうか? 

 約40年前、役所には「子どもは母親が看るべきだから、保育園建設はやめるべきだ」という投書が少なくなかったそうです。

 今の病児保育に対する社会全体の意識も、40年前の保育園に対する意識と近いのかもしれません。今はまさに時代の潮目なのでしょう。そしてその潮目の流れを決めるのが、僕達の世代に課せられたチャレンジなのだと思います。

(文/宮本恵理子 撮影/鈴木愛子)