東京23区にもある病児保育施設ゼロ地域

 まず、「政策」の問題から。先ほどのシーンを振り返ったときに見えてくる課題が、“病児保育の受け入れ枠の不足”です。なぜ不足しているかというと、答えは単純、オカネが無いからです。前回に説明した通り、看護師や保育士を常時配置する病児保育施設運営にはコストがかかります。病児保育対応はかなり福祉的側面も強く、政府からの補助金がないと成り立ちません。

 しかし、その政府が振り分ける予算というのがとても少ない。赤字覚悟の福祉的事業をわざわざ始めるというのは、よほどの志がなければ無理ですよね。結果、病児保育をやろうという気になる事業者が増えないわけです。

 さらに言えば、現状のルールでは、病児保育を運営できる医療機関は小児科のある施設と限定されています。ただでさえ少なく混み合っている小児科の中で、病児保育まで運営しようというところはなかなか出てこないでしょう。

 実際、東京都内でも北区のように、病児保育を提供する施設が医療機関併設型・保育所併設型ともに一軒もないという自治体があるって、ご存じでしたか? 

 一方で、僕が運営しているフローレンス(共済型・訪問型病児保育を提供)では首都圏だけで4300世帯以上と会員契約を結び、今日も50人以上のお預かりがあります。つまり、潜在ニーズは確実にある。なのに、政府はオカネを出さない。

 高齢者向けの政策ばかりに偏り、予算比だけで比較しても、高齢者政策と子ども政策は11:1。日本社会は重度の「子どもにはオカネをかけない病」にかかっているのです。そろそろこの慢性病を本気で治療しないといけないことに、もっと多くの人に気づいてほしいし、行動してほしいです。

子育て予算を広げて、より多くの一人親家庭支援へ

 政府が税金を投入して、事業者にもっと補助金を出せば、利用者の負担は今よりも減り、定員増加など利便性は高まるでしょう。先ほどの再現シーンにあるように、「病児保育コストが家計を苦しめる」という心配の解消にもつながります。

 それに、一人親家庭など、経済的理由で病児保育サービスが受けづらい人をより多く支えることができる。僕としては、これは特に強調したいところです。

 フローレンスでは国から補助金をいただいていないため、1時間当たり2000円で病児保育を提供していますが、一人親家庭に対しては月1000円という格安プランを用意しています。資金は、オープンで受け付けている寄付です。この他、障害児向けの支援も行っています。

 このような“利益追求だけでは実現できない社会課題解決”もできることが、僕が株式会社ではなく、NPOというスタイルにこだわった理由です。社会課題を解決しながら収益性を維持する、というダブルボトムラインに迫られることは、結構つらいことではありますが。

 草の根的に社会的弱者の病児保育をやってきたわけですが、一団体の力には限界があります。一人親を数百人支えられたことに満足してはいけない。日本全国にはその数十倍の方が深刻な問題に直面しているはずですから。

病児保育イメージ(フローレンス)
病児保育イメージ(フローレンス)