ロニー・デル・カルメン(共同監督)
フィリピンのサント・トマス大学で広告美術を学ぶ。広告業界におけるキャンペーンのアート・ディレクターを経て、映画製作を目指すために渡米。1992~1995年のTVシリーズ『バットマン』のストーリー・ボード・アーティストを務める。2000年、『ファインディング・ニモ』のストーリー・スーパーバイザーとしてピクサー・アニメーション・スタジオに入社。その後、『ワン・マン・バンド』(短編)や『レミーのおいしいレストラン』のプロダクション・デザイン、『カールじいさんの空飛ぶ家』のストーリー・スーパーバイザー、『メリダとおそろしの森』『モンスターズ・ユニバーシティ』などでストーリー・アーティストを務める。監督を務めた作品に、エミー賞受賞のTVアニメーション・シリーズ『Freakazoid!』、短編ビデオ作品『ダグの特別な一日』があり、『インサイド・ヘッド』で長編映画監督デビューを果たした。

―― 『インサイド・ヘッド』は、ピクサー長編アニメーション20周年記念作品ですが、ストーリーもキャラクターデザインも、本当にこれまで以上にハイクオリティーで素晴らしかったです! カルメン監督が、特に力を注いだのはどんなところですか?

 「やっぱり一番はストーリーだね。今回は、まさに感情自体をキャラクターにしていることもあって、観客の感情に訴えかけるストーリーにしなければと思い、力を注いだよ。少女ライリーの頭の中の感情が主人公で、観客は感情たちのアドベンチャーを観るわけだが、ライリー自身は自分の頭の中で何が起こっているのか分かっていない。ある意味、2層になっているストーリーを作り上げていったんだが、その辺りは非常に難しかった。技術的な側面で美しい映像を作ったり、記憶というものが頭の中でどう処理されているのかを表現することができても、観客に感情移入してもらって、共感させるには、良いストーリーじゃないと伝わらないからね。だから、構想に3年半、映画を完成させるまでに約5年もかかったんだ」

―― ストーリーもさることながら、ビジュアル面では小さい子どもでも楽しめる、素晴らしい映像になっていますよね。舞台となっている頭の中の描写、司令部や思い出ボール、巨大迷路のような思い出保管場所など、とても壮大で感動しました。自分の頭の中もこんな風になっているのかなと、子どもと話が弾むと思ってうれしくなりました! どのような経緯で、このような描写が作られたのでしょうか?

 「感情表現や心理学などの専門家に話を聞いて、徹底的にリサーチしたよ。実際に記憶というものは、頭の中でどういう風に処理されているのかを研究したんだ。記憶というのは、本作にキャラクターとして登場するヨロコビやカナシミといった強い感情が付随していると、自分にとって非常に特別な記憶として長く残るんだ。あと、映画の中でも描かれている通り、1日の記憶は短期記憶として一旦蓄積されて、眠っている間にボールみたいにゴロゴロと長期記憶の棚に流れていくそうだ。そのプロセスは科学的な事実であって、それに基づいて本作のビジュアルを作り上げていったんだよ。観客がキャラクターになった気分で、壮大な頭の中を冒険できるように、空想ランドやさまざまなエリアを作り上げていったんだ」

頭の中の描写が本当に素晴らしくて感動的!
頭の中の描写が本当に素晴らしくて感動的!

―― 主人公が感情たちというのが、とても画期的です。ライリーの頭の中が中心ですが、ママやパパの感情たちの描写も出てきて面白かったです。それぞれの感情を表すにあたって、スタッフみなさんの体験などは取り入れたりしましたか?

 「もちろん! 僕もピート(・ドクター/本作の監督)も家族持ちだから、ストーリーには非常に共感できる部分がある。特に、パパ・ママ、そしてライリーの一家3人の夕食のシーンなんてのは、頭の中で起こっていることと、現実に起こっていること、2つの世界をきっちり描いているから、分かりやすいシーンだと思うんだが、あのシーンは割と製作初期の頃にアイデアが浮かんで、みんなで作っていったシーンなんだ。僕もよく夕食時に妻が言っていることに上の空で、話を聞いていなくて、ふんふんってうなずいていて、『あなた、私が言ったこと一言も聞いてなかったでしょ! 何て言ったか、言ってみなさいよ!』なんて言われて、すご~く気まずくなったりする(笑)。子どもたちもティーンエイジャーになると、夕食時にお喋りするのが嫌になる年頃になってきて、親の話を聞いていなかったり、ずっと黙り込んだりして、『お前、大丈夫か?』と聞くと、『うーん、まあね』だけで済まそうとすることもあった。そんな体験をストーリーに取り入れたよ」

―― 思春期を迎えると、子どもがまるで別人になってしまうようで、親としてはとても戸惑います。この映画では、ライリーの頭の中で、司令部からヨロコビとカナシミが放り出されることで、それを表現していて、「なんてうまい表現の仕方なんだろう!」と、思わずうなりました。自分も通ってきた道ですが、子どものこととなると悩みが尽きません。監督は、ご自身の子育てを振り返ってみて、いかがでしょうか?

 「そうだね、大人になると、自分がその年頃だったっていうのを忘れてしまうよね。改めて考えてみると、自分もそうだったなと思い出すけれど、親になってみると、自分の子どもが思春期に差し掛かると、どうしても戸惑ってしまって、『どうして急にこんな風になってしまうんだろう。一体何を考えているんだろう』と悩むんだよね。それで、親としての責任感から、自分が何とかしなければと焦って、子どもと非常に難しい関係になってしまう。本作は、思春期の頃というのは、誰にとっても理解できない奇妙な年頃なんだということを大人に思い出させ、共感できる部分がたくさんあるので、そこも見どころの1つになっていると思うよ」

―― 共働きの読者は、ライリーのパパのように、夫婦共に忙しい毎日を送っているので、子どもとの時間をたくさん作れないことに罪悪感を抱いたり、子どもの感情の変化に気が付かなくて、後で落ち込んだりすることもあります。そんな読者たちに、この映画をどのように見てほしいですか?

 「僕もみなさんと同じだよ!(大きくうなずきながら)。 ぜひ、子どもと一緒に本作を見てほしい。子どもたちは、自分に何が起こっているのか、自分の感情というものがどういうものか、分かりやすいキャラクターによって深く理解することができると思うし、親たちは、子どもに対して感情というものを説明しやすくなって、家族でいろいろな会話ができるきっかけになると思う。本作のスタッフに、プールの飛び込み台をとても怖がっている人がいたんだが、彼は『頭の中をビビリが支配しているからだ』と言っていたんだ。彼のように、本作のキャラクターの名前を出しながら、感情についてもっとオープンに会話ができれば、家族はより親密な関係を築けるんじゃないかな。お互いにネガティブな感情は見せたくないかもしれないけれど、ビビリとかムカムカのキャラクターを使えば、腹を割って話せるし、絆を深められると思うよ!」

親子で観たらきっと絆が深まるはず!
親子で観たらきっと絆が深まるはず!

(インタビュー写真/小林秀銀)