長谷川 最初は、他社から「ノー残業デーなんてできるわけがないだろう」と言われていましたが、長時間労働によって若い人が辞めてしまったり、家庭がダメになったりする可能性があるなら、何がなんでもやらなければと思いました。

 業界紙やメディアにも取りあげていただいたことで、若い優秀な社員が集まってきてくれるようになりました。業界他社では社員が集まらなくて悩んでいる。それなら、業界全体で取り組もうという話になったのです。

 業界紙に「こういう改革をしました」という情報を載せてもらうと、発注側も見るので話題になります。広報担当も一緒に、どんどん社外にも知らせていくことが大切だと思いました。

小室 「外部のメディアに出たわが社の姿」というのは、社員は非常に気になるものです。外部のメディアにどう出すかも、戦略の上で大切だと思います。

長谷川 ワーク・ライフバランスに取り組み、実際に残業が目に見えて減った部署を称える報奨制度を作りました。同じ成果を出している2つの部署があったら、残業が少ないほうが効率がいいわけです。ですから、「残業を削減した分を全額ボーナスで返します」と言ったのですが、最初は誰一人信用してくれませんでした。

 そして実際に結果を出した部署にはボーナスで返しました。これで会社と社員の距離が一気に縮まり、信頼関係が深まったと思います。

メンバー同士で興味を持ち始めると、仕事がスムーズになる

小室 「朝メール・夜メール」の効果もありましたね。これは「毎朝、自分の仕事を15分から30分の単位で組み立てて、部内にメールをしてください」とお伝えしているものです。

 「おはようございます」に続いて、「週末に娘の運動会がありました」といったプライベートの様子を紹介する人も出てきて、「あの人って子どもがいたんだ」「今、親御さんの介護中なんだ」などと、一人の人間として興味を持ち始めるようになります。

 生産性の低さは実は社内の“人間関係の悪さ”から来ていることが多いのです。「隣にいる人が嫌い」「仕事を頼みたくない」「先輩に嫌われている気がする」……。そんな思いがあるために、仕事の全部を自分でやってしまい、誰にも聞けずに一人で迷走してしまうのです。

 上司も自分が若いメンバーだった時代、そういう経験をしている。つまり働き方が職人的なのです。そんな道を通ってきているので、やはり上司になっても同様に困っている若いメンバーを野放しにしてしまいがちです。

 この状況は朝夜メールによって解決することができます。

長谷川 周りの人の仕事内容が見えて家庭状況が分かると、その人のことが気になり始めるんですね。困っている人がいたら「じゃあ、みんなでどうフォローしようか」という話が自然と出てくるようになり、仕事もスムーズに進むようになったと思います。

* 次回は、質疑応答についてお伝えします。

(ライター/西山美紀)