長時間残業の申請は、300件から60件にダウン

長谷川 その後、東日本大震災からの復旧・復興業務や防災・減災などの事業が増えたということもありますが、利益が伸びました。

 6年前、300億円の売り上げで10億円の利益を出すという目標を掲げたのですが、市況の悪化によって残業が増え、利益が減ってしまいました。そして売り上げは300億円を切り、利益は1ケタ台に落ちました。

 そこで今回は長時間労働を2012年からの3年間で見直し、市場の改善という追い風も受けながら、売り上げは320億円、370億円、420億円と増やすことができ、2014年9月の利益は40億円ほどになりました。久しぶりに社員に予定を上回るボーナスも支給でき、ベースアップも3.5%になりました。

 一方、残業時間は、2013年は1%、2014年は5%減少。会社が規定する時間を超えた残業申請については、2012年には300件近くあったものが、2013年には60件ほどに減り、しかも利益は2~3倍になりました。

小室 仕事が増えると残業時間が上乗せされ、長時間労働に耐えきれなくなって人材が流出してしまうというケースがありますが、そうではなく受注高16%アップ、残業がマイナス5%という現象になったのですね。素晴らしいです。実際にどのように進めたのでしょうか?

油谷百百子さん(以下、油谷) 2009年秋にワーク・ライフバランス講演会として小室社長の講演会を行ったときに、私自身が衝撃を受けたんです。それまでワーク・ライフ・バランスは“きれいごと”かなと思っていたのですが(笑)、限られた時間で生産性を上げることは当社にとって必要な考えだと思い、すぐに企画を立てて社長に提出し、会社として取り組むことになりました。

 管理職を対象にした研修を行ったときには、「ワーク・ライフバランスの研修」とは言わず、「内部統制研修」という名前で行いました。顧問弁護士を呼び「なぜ残業が減らないのか」「どうしたら残業を減らせるのか」についてワークショップで話し合って発表し、弁護士に講評してもらうことから始めました。

 管理職からは「裁量労働制を取り入れる」「個人の働き方を見直す」という解決策の提案がありましたが、弁護士からは「個人の意識改革だけでは変わりません。あなた達、管理職が部下一人ひとりの残業を管理しなければ減りません」というアドバイスがあり、管理職の意識が高まったように思います。

 最初は社内の4チームという小さい単位で、働き方を見直すプロジェクトから始めました。

小室 小さいチームでも社内に事例を作ることが重要なんです。他社で見られる良い事例を紹介しても、「あの会社はウチの会社みたいに時差のある国とやり取りをする必要がない」「業界が違うのだから、同じようにはいかない」などと取り入れようとしないからです。同じ社内で、しかも残業の多いチームが変わっていく様子を実際に目の当たりにすることでやっと意識が変わるんです。

 最初の講演会で参加者から「わが社の価値は、クライアントからどんな時間に連絡が来ても対応できること。ワーク・ライフバランスを進めることで、その強みが失われてしまったらどうするんですか?」というご質問がありました。

 私は「御社の付加価値は、本当に24時間、365日、お客様のご要望にお応えすることなのでしょうか? 技術という付加価値ではないのでしょうか? すぐに対応できることだけが価値なら、残業をしなくなれば受注はなくなります。御社の価値はそれだけなのか、ぜひ考えてみてください」とお伝えしました。

 実は、2013年末に弊社に転職してきた女性が、パシフィックコンサルタンツさんの大手取り引き先に勤めていました。彼女は産休を取って会社に戻ったら、パシフィックコンサルタンツさんの位置付けががらりと変わっていたことに気付いて驚いたそうです。以前は、3月の納期に向かってお互い泥沼になりながら進めていたのに、産休復帰後はパシフィックコンサルタンツさんが劇的に働き方を変えていた。自分達が納期通りに仕事をするために、いつ何をしなくてはならないかを前倒しでリマインドしてくれるようになったのだそうです。それでお互い確認しあいながら進めていくことで、安心して着実に納期を迎えることができた、と。

 今は、発注先としての位置付けが上がり、技術力で勝負しなければならない重要な案件こそ、パシフィックコンサルタンツさんに最初に相談する雰囲気が生まれているそうです。