働き方の改革に着手した理由は、経営を改善するためだった
長谷川会長(以下、長谷川) 建設コンサルタント業界は欧米では100年から200年くらいの歴史があり、価格よりも技術の成果によって金額を決めることが多いのですが、日本では戦後誕生したため50年から60年ほどとまだ歴史が浅く、公共予算との関係から「安ければいい」という風潮が根強く残っています。
私が若いときには確かにこの業界は“男の仕事”と言われ、自己犠牲の上に成り立っていました。社会に貢献する誇りを持ちつつ、国土を作っているのだから残業は当たり前じゃないかという意識で、会社に寝泊まりしながら頑張っていた世代が今の経営者となり、長時間労働の改善になかなか意識がいかない。私はなんとかその呪縛から抜け出したいと思っていました。
小室さん(以下、小室) 2012年に働き方の改革に挑む前は、仕事の山が毎年3月に集中していましたよね。公共事業の予算の都合上、3月に納期が集中するという背景がありました。
ところが3年間、働き方の改革に取り組まれたことによって、利益や受注高が良い形で変化したんですよね? このように変わるにはどのような意識で取り組んだのでしょうか?
長谷川 実は自分以外の役員達は長時間労働をやめることによる経営への悪影響を心配していました。「残業せずにどうやって経営を成り立たせるのか」と。お客さんの要望にすぐに応えられなければ、お客さんが離れていってしまうのではという恐怖感があったのです。
ところが長時間労働を続けていると、サービス残業により労災認定をされるケースなど、企業そのものが指名停止処分を受ける恐れもあります。また、当時は公共投資に対するバッシングがあり、売り上げも落ちている時期でした。利益も下がりぎみで長時間労働のウエイトが高くなり、“損益分岐点”が上がっていました。それでは経営が成り立ちません。ならば「長時間労働をなくせば経営が改善するのではないか」ということで、多くの役員が納得するに至りました。
左から、小室淑恵さん、パシフィックコンサルタンツの長谷川伸一会長、ワークライフバランス推進担当の油谷百百子さん