夏といえば水遊びの季節です。子どもにとっての水遊びは、ただ楽しいだけでなく、物事への感性を磨いたり、「生きていてよかった」という生きるエネルギーを与えてくれる重要な遊びなのです。
 そこで、子どもの遊びの専門家である愛知教育大学教育学部創造科学系教授の竹井史さんに、水遊びの効用や、親子での遊び方のポイントを教えてもらいました。

 いよいよ、夏本番! 7月に入ると保育園のプール遊びもスタート。近所の公園などでジャブジャブ池もオープンしたりもしますね。子どもは夏の水遊びが大好きだけれど、まだ水に親しんでいない子どもとどうやって関わって水遊びをすればいいのか悩んだり、逆に、張り切り過ぎて子どもを泣かせてしまうといった失敗経験のある親御さんも多いことでしょう。

 そこで今回は、水遊びやプール遊び、どろんこ遊びなど様々な住民参加イベントを企画して、7万人以上もの親子に遊びを伝えてきた子どもの遊びの専門家、愛知教育大学教育学部創造科学系教授の竹井史さんに、子どもの感性や想像力を磨きつつ親子の絆も深まる水遊び術について取材してきました。

子どもに“この世は生きるに値する”と感じさせる

「夏になると、子どもは水と触れ合って遊びたがるようになるわけですが、その時に一番、重要なのは『気持ち良さ』です
 子どもの遊びのなかで最初のベースになるものとして『感覚遊び』というのがあります。目や耳、皮膚感覚など、五感を通して自然物と接していくなかで、様々な物事に対する認識を深めていきます。そんな遊びのなかで、水は子どもの感覚を磨いてくれる“万能素材”なんです」(竹井さん)

愛知教育大学教育学部創造科学系教授の竹井史さん
愛知教育大学教育学部創造科学系教授の竹井史さん

 夏の暑い時期、水に触れるだけでも心地良かったり、水温の変化を感じることもできます。ときにはしずくが光に反射してキラキラ輝くのを見たりするだけでも、幼児期の子ども達はその“不思議さ”や“美しさ”と出会えるのだと、竹井さんは言います。

「水というのは自由に形を変えることができる、ものすごく自由度の高い素材なのが不思議で面白いところです。また『これくらいの量の水をこれくらいのコップに入れると何人分になる』などの基本的な量の概念も、水遊びを通して学んでいきます

 子どもが1歳くらいになると、水道の流れる水を手のひらで受けてジーッと眺めたりするようになりますが、それは水という素材を、五感を使って理解するためにやっていること。それが、水を知るための“原体験”になっています。

 五感を通した水遊びは、「楽しい」とか「面白い」「不思議だな」と感じることが何よりも大事。そのためには、まず、この夏の暑い時期「冷たい水が気持ちいいモノだ」と子どもに感じさせることが重要なのだと竹井さんは話します。

「なぜ、水の気持ちよさを幼児期に経験させてあげるのがいいのかというと、『水が気持ちいい』という感覚は、“この世は生きるに値する”ということにつながるからです。
 お風呂に入って『気持ちいいなあ』と感じるのと同じく、気持ちいいという感覚そのものが生きる喜びでもあるし、遊んで楽しかったことが、次へのいろんな意欲へとつながっていく。だから小さいうちは、水にちょっと触れて戯れるだけでも、子どもにとっては素晴らしい体験になるんです。気持ちいいと感じることこそが生きる喜びになって、その結果、生きるエネルギーにつながっていくということですね」

無理に水につけるのは禁物

 一方、最初は水が顔にかかるのを嫌がる子どもは多いもの。早く水に慣れさせようと焦る親も少なくありません。しかし、いきなり顔に水をかけるようなことは絶対にしてはいけないと、竹井さんは言います。

竹井さんの著書
竹井さんの著書

無理やり顔にかけてしまうと、子どもにとって親は敵でしかなくなります(笑)。特にサービス精神旺盛なパパに多いのですが、何か子どものためにしてあげなければと、水をかけてじゃれ合ったり、プールに投げ込んでしまう。揚げ句の果てに子どもが泣き叫ぶといった光景をよく目にしますが、遊びも度を超してしまうと、子どもは水を気持ちいいモノと感じるより、恐怖を感じて水嫌いになってしまいます。喜んでいる顔をしているかどうかがシグナルなので、慎重に遊んでもらいたいですね

 もし、水遊びをしている時に顔にかかってしまった場合には、「あ、かかっちゃったね、わはは!」と笑って楽しさを演出してあげるようにするのがいいと竹井さんはアドバイスします。

「『かかっちゃったね、冷たいね〜!』など、お互いに笑うようにしてください。そうやって水遊びは楽しいものだという経験を重ねながら、水に対する抵抗感を徐々に減らしていくことがとても大切です。焦らないで少しずつ、慣らしてあげるようにするのがいいでしょう」