本日2015年7月6日(月)より新国立劇場で公演が始まる『かがみのかなたはたなかのなかに』。女優の松たか子さんが出演し、親子向けの優先席を設けたことでも話題を集めています。しかし、“観劇”に難しい印象を抱いて敷居が高いと感じている親も少なくはないはず。舞台の楽しみ方について、そして大人でも子どもでも楽しめる作品になっているという本作の魅力について、日経DUAL羽生祥子編集長が松たか子さんに聞きました。

「鏡」をモチーフに試行錯誤の稽古

「げんき?」
「きんげ?」

 新国立劇場の地下で行われている、『かがみのかなたはたなかのなかに』の稽古場。せりふを発しているのはダンサーの首藤康之さんと近藤良平さんです。体の細かな動きを隅々までチェックしながら、お互いの動きを合わせていきます。

 ふたりはタナカとカナタ、鏡のこちらとむこうで対になって演じる役。ダンサーといういわゆる「体のプロ」であるふたりの動きは、まるで本当に鏡を見ているかのようにぴったり。作・演出を手がける長塚圭史さんも加わり、セリフのイントネーションも入念にチェックしていきます。「まだですか?」「かすでだま?」逆さ言葉になってもそのニュアンスが損なわれないように、一つ一つの音を確認しながら進めていきます。

 続けて稽古場に入ってきたのは松たか子さん。動きやすいよう髪を後ろで一つにまとめ、スニーカーという出で立ち。飾り気のない格好がかえって、彼女のプロフェッショナルな風格を引き立てます。

稽古に臨む女優の松たか子さん。親子向けの舞台『かがみのかなたはたなかのなかに』に出演する
稽古に臨む女優の松たか子さん。親子向けの舞台『かがみのかなたはたなかのなかに』に出演する

 松さんが演じるのは長塚さん演じるコイケの鏡合わせの人物、ケイコ。コイケは鏡に映る姿を見て自分を美女だと思っているけれど、ケイコが鏡を見た時に映るのは冴えない姿のコイケ……という不思議な設定です。しかし、それゆえに難しい役どころ。この設定を感覚的に理解してもらうにはどうすればいいのか? とても同一人物だと思えないふたりを、鏡の特性を活かし、動きを揃えたり、セリフを繰り返すことで同じだと観客に思わせるため、試行錯誤を繰り返す4人。複雑な動きに時おり混乱しながらも、芝居を作っていく4人はそれをむしろ楽しんでいるよう。時折聞こえる笑い声からは、メンバー同士の信頼の厚さがうかがえました。

どうやったら鏡のように見えるか、試行錯誤を繰り返す近藤良平さん(奥)と首藤康之さん(手前)
どうやったら鏡のように見えるか、試行錯誤を繰り返す近藤良平さん(奥)と首藤康之さん(手前)

 『かがみのかなたはたなかのなかに』は長塚圭史さん、近藤良平さん、首藤康之さん、そして松たか子さんの4人による、新国立劇場がおくる子ども向けの新作舞台。同じキャストで演じた前作『音のいない世界で』から2年半ぶりとなる公演です。新国立劇場ではこの公演のために、座席の最前列3列を親子向けに優先的に手配する「こども優先エリア」を設置(6月22日をもって全席が一般に開放された)。夏休みにあわせた「大人も子どもも楽しめる」公演に向けて、稽古中の松さんにインタビューしました。