「どうやって作っているの?」監督に聞いてみた

リチャード・スターザック(監督/脚本)
1959年、イギリス・サフォーク生まれ。1983年にアードマン・アニメーションズに入社(当時はリチャード・ゴルゾウスキー名で活動)。同社黎明期を支えたクリエイターとして知られる。1992年にフリーランスに転向するまでの間、『モーフとゆかいな仲間たち』や、ピーター・ガブリエルのミュージック・ビデオ『スレッジハンマー』など、アードマン・アニメーションズ初期の名作に携わる。フリーランスとしては、『ハッピーワンコ劇場/レックス・ザ・ラント』の13話分の脚本を執筆。2000年、Carlton Award for International Animationのインディーズ部門で受賞したほか、BBC1の『となかいロビー 炎のランナー』を監督。再びアードマンに戻り、『快適な生活 ぼくらはみんないきている』の第2シリーズの脚本と監督を担当。その後、放送・開発部門のクリエイティブ・ディレクターに就任し、TVシリーズ版『ひつじのショーン』開発に携わる。

 インタビュー・ルームに入ると、テーブルの上にショーンや新キャラクターのトランパーたちのパペットが置かれていました。実際に映画に使われたパペットだそうで、私達取材チームは大興奮! しかも触ってもOKとのことで、映画の“出演者”たちに恐る恐る触れると、やはり粘土なので柔らか。世界的な人気キャラクター、ショーンの実物との対面に感動です。さらに、監督がショーンの手足を動かしてくれました。

映画の出演者。実物です! 右からショーン、トランパー、ビッツァー、手前がティミー
映画の出演者。実物です! 右からショーン、トランパー、ビッツァー、手前がティミー

 一同、監督から頂いたショーンのピンバッチを胸に着け(よく見ると監督の胸元にもピンバッチ)、いざインタビュー開始!

――『映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』、本当に面白かったです! セリフなしの85分の映画を作るのは、とてもチャレンジングだったと思いますが、いかがでしたか?

 「そうだね、長く持たせるためにはシンプルなストーリーでなくてはいけなかったから、いろいろな案を試してはみたが、うまくいかないアイデアもたくさんあったんだ。そこで、コメディーの要素を増やして、説明が必要な複雑さはなるべく排除した。セリフがなくても、キャラクターが何を考えているか理解できるようにすることが非常に重要だったよ」

実は、子ども向けに作品を作ってるわけではない

――大都会で繰り広げられる大冒険は、とてもエキサイティングで、牧場主が記憶喪失になるストーリーは、とてもドラマチックでした。女好きのトランパーを女装でだますところなど、大人が楽しめる要素も満載で、乳幼児から祖父母まで、みんなで見に行って、大いに盛り上がれる映画だと思います。そういうことは意識されましたか?

 「アードマンは子ども向けに作品を作っていないんだよ。我々スタッフ、クリエイター達が笑えるものを意識しているので、『ウォレスとグルミット』も『モーフとゆかいな仲間たち』も『快適な生活 ぼくらはみんないきている』も、すべて子どもをターゲットにするのではなく、我々が笑って、子どももついてこられるものを作っているんだ」

――『ひつじのショーン』には、監督が実際に経験したことを、ストーリーに入れることもあるそうですが、今回の映画には何か入っていますか?

 「共同脚本家であり、共同監督のマーク・バートンと僕が、自分の父親との体験談について話し合ったんだ。今回の映画では、牧場主が父親で、ショーンが息子という役割なんだが、TVシリーズではそういう関係は描かれたことがなかった。父との関係では、ときには否定されるなど嫌な思い出もある一方、愛情を感じたこともある。これらの体験談を取り入れたよ。我々の体験や見たり聞いたりしたことは、かなり反映されていて、例えばショーンに関しても、ビッツァーに関しても、彼らの表情は分かりやすくしないといけないし、もちろんボディランゲージも使うので、リハーサルのときに実際に僕とマークで演じてみて、それを録画するんだ。顔つきや反応を実際にやってみて、キャラクターを動かすんだよ」

――誰かをモデルにして、キャラクターを考えたりすることは?

 「動物捕獲人のトランパーは、以前アードマンで雇われていた警備員がモデルになっているんだよ。彼は威圧的で、いつも怒っているような男で、誰も彼のことが好きじゃなかった(笑)。トランパーのヒゲも彼にそっくりだし、制服を着ていることを気に入っているところも、振り返るときに体ごと向きを変えるボディーランゲージも、ちょっとヒトラー的な面も参考にしたんだよ」

映画の中に、ヘルメットで作った車が登場する

――もしも映画を見たら、自分だと気づくかもしれませんね(笑)。ストップモーション・アニメーションは、どのように作っているのか、子どもも大人も興味を持たずにはいられないのですが、映画版を作るのも本当に大変な作業だったと思います。映画の製作で、何か裏話などがあったら教えてください。

 「CGアニメーションよりも難しいとか、苦労が多いということではないんだ。やり方が違うだけでね。今回は予算があまり多くない中で、大都会を描いているので、たくさんの車両が必要だった。レストランのシーンを撮影していた時、窓の外に通行人や車が通る様子を映さなければならなかったが、車両のスペアがなくなってしまったんだ。作るのを待つ時間もなくて困っていたら、アニメーターの1人がヘルメットを持っていて、それがちょうど車と同じくらいの大きさだったから、それを車の代わりに映してみた。そうしたら、ホンダのシビックみたいに見えたよ(笑)」

――もう1回見て、ヘルメットを探したいです(笑)。スタッフのみなさんが、それぞれお仕事を愛しているのが作品ににじみ出ているので、見ている私たちも幸せな気持ちになります。監督はこのお仕事を長く続けていますが、ずっと好きでいられるのはなぜでしょうか?

 「非常に満足できる、達成感を得られる仕事だからだ。自分のアイデアを、経験豊富なチームみんなで実現化させることができる。ピーター・ロード(アードマンの共同創設・経営者でクリエイティブ・ディレクター。本作の製作総指揮者の1人)は、『ロールスロイスを運転している気分だ』と言っていたが、要するに、各分野のエキスパート達によって、すべてがファインチューニングされている中で、全員で大きなものを作り上げるという、その達成感を得られる仕事なんだよ」

――素晴らしいお仕事ですね! 将来、監督やアードマンのスタッフのような仕事をしたいと思っている子どもたちに、何かアドバイスを頂けますか?

 「違う仕事を勧めるね、お金持ちにはなれないから(笑)。僕の息子は会計士を目指していて、非常にありがたいんだ。将来養ってもらえるからね(笑)。真面目にアドバイスすると、僕がこの仕事を始めたころは、まだ技術も発達していなくて、カメラも大きいものしかなかったし、すべての工程においても、編集においても非常にお金がかかったんだが、今は技術も進歩しているから、スマホのアプリを使って、子ども達でも作ることができるんじゃないかな。僕は大学で教えたりもしているけれど、楽しみながらストップモーション・アニメーションを作っている人は既にいて、彼らはきっとやり続けるだろうと思う。そういう人は将来アードマンに就職したり、自分の会社を設立したりするだろう。楽しみながら自分のスタイルを確立して、どんどんやってみるといいよ!」

――ありがとうございます。では最後に、この映画を親子で見に行く読者に、見終わった後、親が子どもに自慢できるようなトリビアを教えてください!

 「ショーンの人形は、全部で25体あるんだよ。ほかには……(しばらく考えて)、劇中バードウォッチングしているのは、ニック・パーク※だっていうのはどうかな。声もニックが演じているんだ」
※ニック・パーク
『映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』の製作総指揮を務めるクレイ・アニメーション界のレジェンド。彼が手掛けた『快適な生活』『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』『ウォレスとグルミット 危機一髪!』はアカデミー賞・短編アニメ賞を、『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』はアカデミー賞・長編アニメ賞を受賞し、アードマン・アニメーションズを大きく飛躍させた。

(インタビュー写真/小林秀銀)