親は一生懸命働く背中を見せ、子どもに負けない体力と気力を養う

―― ミス・ユニバースとしての任期を終えた後は、お母さんと一緒にダンススタジオを経営し、多くの子ども達にダンスを教えています。ずっと、この道に進みたいと思っていたのですか?

 私、自分自身が子どもだったときから、子どもが大好きだったんです。年下の子の面倒を見るのが好きで、ダンサーになれなかったらベビーシッターになりたいと思っていたくらい。それで、中学生のころから自然とダンススクールのジュニアクラスのお手伝いをして、高校生になると、母のスタジオでいくつかレッスンを任されるようなりました。そのときに、自分で踊ることも好きだけれど、人に指導をして、何も踊れなかった人を踊れるように育てていくことにすごくやりがいを感じたんです。だから自分に合っているんだなと考えました。それが、自然と将来の夢になって、今、実現しているんです。

 ミス・ユニバースを終えて帰ってきた直後に私の生徒になった子も、7年分成長しました。2歳で歩くのもヨチヨチだった子がもう小学生になって、今はクルクル回っている。そういう成長をしっかり見せてもらえるのが、今の自分にとって何よりもうれしいことです

―― 読者のなかには、仕事に充実感を持ちながらも、子どもと一緒の時間を十分に取れないと不安に思っている人もいます。そういう人に対して、森さんのお母さんなら、何て言うでしょう?

 長い時間、いつも一緒にいることだけが愛情ではないと、母は言うと思います。

 両親が働いて家にいないから愛情が足りないと思ったことは、私自身は一度もありません。それに、愛情表現の仕方も人それぞれのはずです。一緒に寝ることができない、一緒に遊ぶ時間が少ないっていうことをストレスに思わないで、一生懸命働いている姿を背中で見せればいいと思います。そうすれば、子どもは自然とついてくるし、納得するのではないでしょうか。私自身がそうでしたから。

 そしてたまに時間ができたときに、自分の伝えたいことをきちんと言葉で伝えることも大事なんだと思います。「もううるさいな」っていうくらい「格言」を子どもに言いまくるのがいいのではないでしょうか、うちの母のように(笑)。

 もちろん子どもだから、うるさがるときもあります。それでも言い続ける。子どもが嫌がること、聞きたくないことも言って、子どもに立ち向かい、ぶつかっていくのが母のスタイルです。今でもダンススタジオで多くの子どもを相手にする母は、「若いエネルギーみなぎる子ども達には負けない」ってよく言います。子どもに気を使って「○○ちゃん、こんなこと言ったら怒るかしら」と不安がる親もいるけれど、そんな心配をする前に子どもに負けない体力と気力をつけるべき、と言うのです。だから私は今日も鍛えるんだ、と母は還暦を超えた今も相変わらずシャキッとしています。

 そうそう、昨日母に言われた格言、思い出しました。「花には水を、人には愛を」。限られた時間でも、愛情をいっぱい注げばいいんだと思います。

森理世(もり・りよ)
1986年静岡県生まれ。2007年度ミス・ユニバース・ジャパンおよびミス・ユニバース世界大会優勝者。就任後は約15カ国を巡りチャリティー活動に従事。帰国後の2009年、母と共にダンスを通してすべての年代の人の生きがいや美と健康をサポートすることを目的に、「I.R.M.アカデミー」を設立。アーティスティック・ディレクターとして講師を務めるほか、ダンサーやモデル、静岡市観光親善大使などとして活躍する。

(文/高橋京子 写真/平岩 享 編集協力/Integra Software Services)