つい最近までフィンランドの首都、ヘルシンキに住み、フィンランドでの出産経験もあるワーキングマザーの安藤由紀子さん。子どもを持ったことをきっかけに、建築士としても保育施設に興味を抱き始めた安藤さんが、ヘルシンキを中心に10以上の施設を見学し、インタビューしました。そのうちのいくつかをご紹介します。

【前回までの記事】
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僕の保育園には図書館があるんだよ!

 まず訪れたのは、ユハ・レイヴィスカというフィンランドで有名な建築家が1992年に設計した、図書館と併設されているPäiväkoti(パイヴァコティ)=公立の保育施設。2014年時点で63名の子どもが通う3クラス編成の施設です。ヘルシンキにある中では中規模で、クラス分けは(1)3歳くらいまで、(2)3歳くらいから5歳、(3)6歳のEsikoulu(エシコウル)=就学時前教室となっていました。  ※パイヴァコティとエシコウルについては前回の記事を参照

園庭から見た図書館
園庭から見た図書館

 このパイヴァコティでは中庭/園庭の反対側に図書館が配置されています。「図書館の閲覧室に保育施設の庭が面しているってどうなの? うるさくないの?」という疑問が湧いてくるかもしれません。それがそれほど気にならないのです。

 私は園を見学する以前も何度か図書館のほうを訪れていたのですが、中庭に子ども達が出ていてもうるさいという印象はありませんでした。それどころか、ふと本から目を外したときに子どもが無邪気に遊ぶ姿を目にし、少し心が和んだくらいです。私自身が独身時代に感じたことなので、同じ年ごろの子を持つ親にありがちな感想というわけではありません。

 音がそれほど気にならないのは、北欧ならではの厚みある外壁や標準仕様である2層の窓ガラスによるところが大きいのです。寒さに対応するための必然的な仕様なのですが、そのおかげで音に対する配慮も建築面からなされているのです。

保育室の中の様子。ポップな色合いを使いながらも華美な装飾がない北欧らしいつくり
保育室の中の様子。ポップな色合いを使いながらも華美な装飾がない北欧らしいつくり

 図書館にいると、中庭から子ども達が入ってきます。図書館のホールで読み聞かせが始まるのです。それぞれのクラスで、週に一度は図書館を利用しているようでした。図書館内には子ども達が創作した作品を展示するスペースもあります。子ども達は展示物を色々な人に見てもらうことを非常に楽しみにしているそうです。また近所に老人福祉施設があり、週に一度そちらの施設に通い、高齢者と一緒に歌を歌ったり、何かを製作したりして交流するそうです。

 新しい施設ではないのですが、このパイヴァコティが自分の家の近所にあったら、きっと第一希望に選ぶだろうなと思える恵まれた環境と保育方針です。

図書館の内部。天井が高く、窓も大きくとってあり開放的な雰囲気
図書館の内部。天井が高く、窓も大きくとってあり開放的な雰囲気

 見学をしていて感じたことの一つは「公立で保育料も同じなのに、施設ごとにこんなに差があってもいいんだ!」ということ。もちろん日本でも地域によって園によって大きな違いがあると思いますが、ヘルシンキおよびその近郊でのパイヴァコティは本当に多種多様です。

 見学したパイヴァコティの一つで、幼いころに日本で生活したことがあり、大学卒業時には日本の幼稚園を見学したことがあるという先生に出会いました。その先生は「フィンランドのほうが施設ごとに自由にカリキュラムが決められる」と話していました。「保育士が子ども達にとっていいと思えば何でもやってみることができるのよ。もちろんその分の責任は重いけどね」と。施設だけでなく保育の方針も様々なのです。