教科書を求めず目の前にいる子どもを見つめる。見れば見るほど面白くてかわいいから

────教科書通りにはいかない――分かっていても、現代人は、なんでも“原則論”を欲しがるのかもしれません。「こういう場合はこう」「このときはこう」と、ある程度マニュアルがあれば判断が楽なのです…。

 今のお母さんって、頭だけで考える人が多い気がしています。何歳何カ月になったら本を与えなさい、と育児書に書いてあるのにうちの子は興味を示さない、なんて心配したり。

 もっと純粋に、素朴に、育てる楽しみを味わってほしい。

 そんなお母さんには、「あなたのお子さんをよく見てごらんなさい」と勧めます。見れば見るほど、面白くてかわいいじゃないですか。

 子育てに不安を抱えているお母さんは、ベテランの保育士に気軽く相談したり、お母さん同士でおしゃべりしたりするといいと思います。

 児童文学を読み返すのもおすすめ。子ども向けの物語には、いたずらする子やマイペースの子、いろんな子が出てきます。そして、彼らを見守る賢い大人もちゃんと出てきます。

 私の場合は、『小さい牛追い』(マリー・ハムズン/岩波少年文庫)のお母さんが大好きで、いつも憧れていました。

 作者であるハムズン夫人が若い母親であったころ、自身の子どもたちの生活をもとに書かれたお話。ノルウェーの農場で豊かな自然の中で暮らす家族には、4人の子どもたちがいます。男の子2人が年上で10歳と8歳、下の女の子2人は5歳前後。

 のびのびと生きる子どもたちは、自作ボートを使っての川遊び、森に忍び込んでするインディアンごっこなど、ハラハラするような遊びばかり。大人にとっては心配の連続なのね。

 でも、このお母さんは、畑仕事から家畜の世話まで家業を一手に引き受けていて大忙しなのだけれど、いつも泰然自若としているの。ヒステリックには決してならない。見て見ぬふりを貫いて子どもを見守り、手出し、口出しはほとんどしない。

 大変なことがあって子どもが頼ってきたときは、きちんと話を聞き、適切なアドバイスをして、最後はギュッと抱きしめる。私もかくありたいと、何度も読みました。

 ほかにも、『大草原の小さな家』(ローラ・インガルス・ワイルダー/岩波少年文庫)、『あらしの前』『あらしのあと』(ドラ・ド・ヨング/岩波少年文庫)、『ツバメ号とアマゾン号』(アーサー・ランサム/岩波少年文庫)などにも、素敵なお母さんが登場します。

 私は子ども時代、岩波少年文庫に魅せられ、古今東西の名著をたくさん読みました。いいお母さんって世界共通。子どもの本の中には、お手本にしたくなるお母さんがいっぱいいます。

 生身のお母さんじゃなくたって、フィクションの中で、「こういうお母さんになりたい」と思える女性に出会えたら必ず良い指針になるでしょう。

(取材・文/平山ゆりの 写真/鈴木愛子)

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